本研究課題では、再生医療・医学診断等へ応用可能な生体類似の高機能三次元組織の構築のため、「細胞培養環境で溶解除去可能な温度応答性足場材料の開発」を目的とする。本課題を計画・実施するに当たり、数多くの感熱応答性高分子を調査・合成したが、体温付近での迅速なゲル化が可能な高分子が数多くあるものの、培養基材としての強度が弱く、また天然由来高分子も限られていた。加えて、いずれの高分子も比較的短時間でゲル化するものの、逆過程であるゾル化は非常に遅いことが難点であった。そこで、H26年度は、一つのキトサン誘導体に焦点を絞り検討を重ねたところ、わずか数%培地に高分子を添加するだけで、培地を迅速にゾルーゲル転移させることに成功した。この現象を利用して、細胞を含む高分子溶液を4度に冷却した後、37度の環境で成型することで、任意の三次元形状を有する細胞とゲルの複合体を作製できた。さらに、非常に興味深いことに、その複合体を再度4度で冷却すると、ゲルが溶解し、細胞組織体が得られた。続いて、H27年度は、可逆的な感熱応答性高分子のゾルーゲル転移におけるゲルの再溶解過程(ゾル化)の過程を詳細に検討すべく、キトサン誘導体の側鎖導入率や溶液濃度を制御した。その結果、側鎖導入率の増大に伴い、水溶性が向上し、より低濃度溶液からゾルーゲル転移が可能であることを見出した。また、高濃度溶液から作製したゲルであっても、4度における再溶解が見られたことは非常に興味深い。一方、細胞培養液を用いた組織体構築においては、ディスペンサーを用いた細胞組織体の造形に成功した。より複雑な自動化技術を併用していくことで、今後さらに複雑な組織の造形が可能になると期待している。
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