これまで手術安全に対する様々な取組みや努力が繰り返されてきた。そのアプローチは主に2種類であり、既に生じた事象からその原因を究明し事後の対策に繋げるというアプローチと、ハインリッヒの法則に示されるように重大事故の背景に存在する多数の軽微な事故からリスク源の特定を行い、事前に危険の芽を摘むというアプローチである。 本研究では手術室内の医療スタッフの動作の定量的記録と解析から、作業プロセスの可視化と問題なく手術が行われた「通常」の手術プロセスの定義を行い、その「通常」の手術プロセスに基づいて「通常」から逸脱した事象としての異常検出を試みることを目的として、手術プロセスのモデル化を行ってきた。 昨年度まではRGB+Depthカメラ(Microsoft Kinect)を用いて3方向から手術室内を撮影し、執刀医や麻酔科医、手洗い看護師、外回り看護師の特徴的パターンの認識が可能になった。また手術室内で区域を分割し、各スタッフがそのどの区域にいるかという位置情報の特徴値を用いて隠れマルコフモデルによる手術フェーズの推定を行い、手術の進行に伴って手術フェーズの推定が可能であることを示した。 しかし、その結果は過学習を行っていることが危惧されたことから、最終年度となる本年度は、既に記録した30症例の内、25症例のみを用いた学習を行い、未知の症例として設定した残り5症例においてフェーズ認識の精度を評価した。その結果、5症例に対する正答率は平均96.5%、標準偏差1.2%となった。
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