Uncontrolled manifold(UCM)解析を用いて,変形性膝関節症患者における歩行時の関節運動の協調性を調べることを明らかにする目的で行った. 被験者は変形性膝関節症患者と年齢に差がない健常高齢者であった.課題動作は被験者が自然と感じるスピードの歩行とし,10回試行した.運動学的データは三次元動作解析システム,運動力学的データは床反力計を用いて計測した.解析区間は罹患側の単脚支持期とした.またUCM解析は,タスク変数を左右方向の身体重心座標と遊脚足部座標し,タスク変数に対する要素変数であるセグメント角度の影響を評価するために行った.タスク達成に影響を及ぼさない良い変動と影響を及ぼす悪い変動,各セグメント角度の分散を算出した. 結果,変形性膝関節症患者は健常高齢者と比較して,立脚中期から立脚後期にかけて,左右方向身体重心座標に影響を及ぼす悪い変動が有意に大きくなっていた.さらに立脚側の大腿および下腿セグメント角度の試行間の分散は有意に大きく,逆に遊脚側の下腿セグメント角度の試行間の分散は有意に小さくなっていた.これらのことから,変形性膝関節症患者は歩行時において,罹患側である立脚側の大腿および下腿セグメントの分散の増大が左右方向身体重心に影響を及ぼしているが,遊脚側の下腿セグメントの自由度を減らした動作戦略をとることで,遊脚足部座標には影響を及ぼさないことが明らかとなった.また,左右方向身体重心の安定性の確保よりも遊脚足部のトゥクリアランスの確保に対するタスク達成により集中していることから,変形性膝関節症患者の新たな理学療法として,片脚立位での左右方向身体重心の制御の再獲得,ならびに罹患側股関節周囲筋の筋機能改善による罹患側下肢の協調性改善が重要であることが示唆された.
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