研究実績の概要 |
両側下肢他動運動による求心性感覚入力が中枢運動指令に与える影響について調べるため、健常者を対象に実験を行った。具体的には、自転車エルゴメーターによる下肢他動運動中(回転数60rpm,1分間)に運動イメージを行い、換気量、呼吸数、酸素消費量、二酸化炭素肺気量、呼気終末炭酸ガス濃度を含む呼吸応答及び心電図や血圧を含む循環応答を経時的に記録した。その時の大脳皮質及び末梢主動筋の血流動態について、近赤外分光法(NIRS)を用いて前頭前野及び大腿四頭筋における酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)・脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)の濃度変化を検出した。中枢性運動呼吸循環調節の評価を目的として用いた運動イメージは第一人称及び第三人称の2条件を設定し、直前に実際の随意サイクリング運動も実施した。結果として、他動運動のみに比べ、他動運動に運動イメージを同時に行ったほうが分時換気量、呼吸数、心拍数が有意に増加した。大脳前頭前野の血流動態について、Oxy-HbとDeoxy-Hbの濃度は第一人称と第三人称イメージにおいてともに減少し、両者で差が認められなかった。一方、大腿四頭筋におけるOxy-Hb濃度が増加し、第三人称に比べ第一人称イメージ時では有意に大きく、Deoxy-Hb濃度は減少し両者で差がなかった。さらに、他動運動に伴い大脳前頭前野のOxy-Hb濃度は減少したが、運動イメージを同時に行う場合、第三人称イメージでは同程度の減少がみられたが第一人称イメージではさらに減少することが認められた。以上のことから、運動イメージは自転車エルゴメーター他動運動に伴う呼吸循環応答を増進することが示唆された。また、末梢主動筋の血流は第三人称よりも第一人称イメージのほうが増加し、運動イメージを評価する客観的な指標として利用できることを示唆すると同時に、大脳前頭前野の血流変化よりも適切であることが示された。
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