加齢や認知症がコミュニケーションの基礎となる語彙・意味機能に及ぼす影響について、それらの機能が簡便に評価できる方法を開発し、高齢者および認知症高齢者の特徴を解析した。この結果、以下の結果を得た。健常若年者、健常高齢者および認知症者に対し、モニター上にランダムに提示される語に対して、その語が実在するかどうかを判断する実在語判断課題を実施した。この結果、健常群に比べて認知症群では、反応時間が有意に延長するとともに、反応がきわめて多彩であった。この結果は、認知症による語彙・意味機能の低下が示されるとともに、その個人差が極めて大きいことを示すと考えた。これらの点について検討を加えるため、ある目標語から想起される語句を口頭で述べる語産生リスト課題を実施し、各群ごとにその産生語の内訳を比較した。この結果、若年群は目標語のカテゴリーや属性・機能に関する産生語が占める比率が高かったが、高齢群ではその目標語の使用状況や文脈に関する産生語が多く、認知症群では目標語から内省的に想起される感情や個人的経験に基づく産生語が有意に多くを占めた。これらの結果は、加齢や認知症により語彙・意味機能の変容が生じるとともに、加齢によって一般的知識の利用から文脈情報の利用が優位となり、認知症によって個人の経験や感情による知識の利用が優位となること、もしくはそれらの知識が保存されやすい傾向を示していると考えた。高齢者や認知症者へのコミュニケーション援助やケア方法について有用な示唆を得た。
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