研究実績の概要 |
本研究では,ヒトの視覚的気づきの神経基盤とその気づきの神経基盤における大脳半球機能的非対称性を検証した. 日本語を第一言語とする健常成人18名を対象とし,高密度脳波計(128-ch EEG)を用いて事象関連電位(event-related potential,ERP)を記録した.気づきの操作にはBackward Masking法を採用し,大脳半球の機能的左右差を検証するため,左右半視野に4種類(顔と物体,漢字とスクランブル文字)の刺激をサブリミナル条件17ms, 意識上条件300msの刺激時間でそれぞれモニターに提示した.得られたデータより,一次視覚野の活動由来とされるP100と紡錘状回の活動由来とされるN170の振幅および潜時を左右半球それぞれで計測し,提示視野との関連も含め検討した. P100はサブリミナル条件,意識上条件のいずれにおいても同定可能であった.顔/物体刺激,漢字/スクランブル文字刺激のいずれにおいても,刺激視野対側P100振幅が有意に大きかった.N170はサブリミナル条件では識別不能であったが,意識上条件では明瞭に誘発された.顔/物体刺激に対する右半球の反応は,顔N170が物体N170よりも大きく,特に左視野刺激時の顔N170が最も大きかった.左半球では,同様に顔N170が物体N170よりも大きかったが,刺激視野と刺激種類に交互作用は認められなかった.一方,漢字/スクランブル文字では,左右両半球においても刺激種類に主効果は認められなかったが,刺激視野に対する主効果が認められ,刺激視野対側N170振幅が大きい結果となった. 以上より,気づきの有無にかかわらず一次視覚野への入力は認められた.また,紡錘状回での視覚情報処理段階では気づきの有無による影響が示唆されたが,気づきのないサブリミナル条件下での大脳半球機能的非対称性は明示されなかった.
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