研究実績の概要 |
他者の意図理解などに関わる「こころの理論」を含む社会的認知(social cognition)は、人間が社会生活を送る上で非常に重要な能力である。この社会的認知がアルツハイマー病の進行とともに低下するとの指摘がなされているが、記憶や言語機能に障害のある認知症高齢者に対し「こころの理論」能力をいかに評価するかが問題となっていた。本研究では、既存のこころの理論とは異なり、記憶や言語学的側面の要素を排除した「こころの理論」課題の妥当性を検討すると共に、定型発達児におけるsocial cognitionの習得過程と認知症高齢者におけるそれら能力の障害過程との関連を検討することを目的とする。また、そこで得られた結果をケア職や介護家族に対する指導にも応用することを目的とする。 平成26年度は、定型発達児における「こころの理論」の発達過程と、認知症高齢者におけるアルツハイマー病の進行とそれら課題成績との関連について検討するための基本的なデータ収集を行った。 具体的には、こころの理論課題として筆者が新規に作成したY-FMET(Yamaguchi T, et al: Dement Geriat Cogn Dis Extra 2(1): 248-57, 2012.)を約160名の被検者の協力を得て(3~5歳の幼稚園児約70名と6~9歳の小学生約90名)データを収集することができた。また、健常高齢者、健忘方軽度認知障害の高齢者、アルツハイマー型認知症高齢者の同成績との関連について検討する準備が整った。暫定的な結果としては、定型発達児におけるY-FEMTの成績は月齢とともに向上し、小学校中学年頃にはおおむね作成することができるとともに、アルツハイマー病の進行とは負の相関を認めた。
|