研究実績の概要 |
社会的認知(social cognition)は他者の意図や表情などを読み取る能力で、人間が他者と関わりながら社会の中で生活する上で非常に重要な能力である。本研究では、認知症者におけるsocial cognitionの低下について、子どもの発達過程との関連から検討した。幼稚園児と小学生計165名に対し、social cognition課題のうち記憶や言語機能に障害のある認知症高齢者に対しても実施可能なY-FEMT(Yamaguchi T, et al: Dement Geriat Cogn Dis Extra 2(1): 248-57, 2012.)を実施した。結果、月例とY-FEMTのtotal scoreは有意な相関を認め、顔の表情作成能力を示す得点より、顔の基本的な構成能力を示す得点の方が早期から獲得される傾向にあった。これは、アルツハイマー型認知症の進行による得点低下の傾向を逆行した。 また、認知症の医療やケアに携わる医療職に対し、social cognitionの認知度や認知症ケアにおけるsocial cognitionの有用性についてアンケート調査を実施した。結果、380名に協力が得られ、social cognitionの認知度や認知症者におけるsocial cognitionの低下に関する知名度は低かった。しかし、social cognitionの視点を認知症ケアに活かすことは「とても役に立つ」「役に立つ」と回答した対象者が8割以上であった。認知症ケアにsocial cognitionの視点を活用することは有用であると考えられたが、臨床場面では未だ十分に広まっていないため、論文投稿の作業を進めるとともに、書籍や雑誌等でもそれらについてまとめた。
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