本研究は,他動運動時における大脳皮質興奮性変化の神経基盤を明らかにすることを目的とした研究であり,他動運動による大脳皮質活動の経時的変化を捉えることと,他動運動が一次運動野の興奮性に与える影響を解明する. 他動運動はリハビリテーション分野において多く用いられる治療のひとつである.これまでの先行研究では他動運動時の大脳皮質の活動領域を計測したのみであり,他動運動時における大脳皮質活動の経時的変化と他動運動後に観察される波形成分の詳細についてはいまだ明らかとなっていない.そこで,平成26年度の我々の実験では,脳活動部位を推定するだけでなく,他動運動時の大脳皮質活動の経時的変化を詳細にとらえることを目的に,脳磁界計測装置(Magnetoencephalography; MEG)を用いて,他動運動速度および運動範囲に変化を加えることで,他動運動後に観察される体性感覚誘発磁界の各波形成分の特徴を明らかにすることとした. 本研究の結果から,他動運動直後に観察される波形(PM1)は一次運動野に活動が認められ,運動速度に依存して振幅値が変動することも明らかとなった.他動運動後約80msに観察されたPM 2は運動範囲および運動速度の変化による影響は受けず,対側頭頂連合野に活動部位が推定された.他動運動後約160msに観察されたPM 3は運動持続時間によって影響を受け,PM 3の活動部位は対側一次体性感覚野に推定された. 平成26年度の実験結果より,他動運動によって大脳皮質のさまざまな領域が経時的に活動すること,また各被験者によって活動のタイミングが異なることが明らかとなった.平成27年度では,平成26年度で対象とした被験者と同一被験者を対象とし,他動運動後の各波形成分のピーク潜時で経頭蓋磁気刺激を行うことによって,他動運動と一次運動野の関連性を明らかにする予定であった.
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