言語障害の一種である吃音は、音や語の一部の繰り返し・引き伸ばしと、発話の開始や継続ができなくなる阻止(難発)とを中核症状とし、その他の非流暢も伴う。進展(悪化)に伴い発話困難のため社会参加に影響が及ぶ場合もある。吃音の言語訓練では流暢性形成訓練が広く用いられている。流暢形成訓練に含まれる柔らかい声立て(軟起声)の自動判定には従来は立ち上がりにかかる時間が用いられるため、1音目を不自然に伸ばした発話パターンが練習され、日常で使いにくい印象を与える恐れがある。そこで本研究では、立ち上がりにかかる時間によらない音響特徴量から自動判別する手法を開発した。具体的には、声帯が開いた状態からの起声を軟起声と定義し、発声開始時の音声波形の周期性に関わる特徴量を利用する。臨床経験のある言語聴覚士の軟起声・硬起声を学習データとして用いて高い判別率を得た。また、吃音者および非吃音者に軟起声を教示して発声を比較し、吃音者のほうが有意に軟起声を意図した発声において硬起声で発声した者が多いことを示した。さらに、軟起声の評価を視覚的にフィードバックする言語訓練システムを作成した。それを使って吃音者に長期的な訓練を行った。本システムの使用前の1か月(言語訓練実施中、ベースライン)の後、1か月間は言語訓練と並行して提案システムを使用した練習を行った。軟起声の指示をしない普段の発声は提案システムの導入前には硬起声に分類されていたが、訓練期間終了後は軟起声に近づいていた。さらに、その発声のさいの構音速度もゆっくりになることを回避できた。
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