本研究では、高齢者や障害者の、発話の障害を支援する音声機器として「構音器官(舌)の動き」の代替という視点から、「指の動き」によるリアルタイム音声生成器の改良・開発を行っている。すなわち、ペンタブレットあるいはタッチパネル上をペンや指でなぞると、その点に対応する音韻をリアルタイムに生成する機器の開発を目指している。本課題は、とくに、製品化に至ったスマートフォン向けアプリの改良を行うと同時に、利用者本人に残された声や身体機能を活用できる新しい方式の開発を目的としている。例えば、発声機能が残存している構音障害の利用者では、本人が発声する声の抑揚等を使いながら、音韻を付加すれば、本人自身の韻律情報を利用できる。 28年度には、前年度までに得られた成果を統合して、喉頭マイクから取得された利用者自身の不明瞭な声を入力して、本人自身の声にできるだけ近い声で、構音機能を補うアルゴリズムを実装し、必要な要素を明らかにした。具体的には、平成26年に行った速度補完による喉頭マイクからの音声との同期アルゴリズムと、平成27年度の個人の声質の再現手法を統合させて、指の動きと本人に残された発声機能とを同時に使うことで、音韻が補完された音声を生成させるように、音声生成器を改良した。これにより、発声機能が残されていて構音機能に障害を持つ利用者の発声を活かして、抑揚や声質を残したまま音韻を付加することを、汎用パソコン上で可能にした。また、平成27年度の声質維持のアルゴリズムを改良し、専門知識のない一般のユーザのために簡単に自分自身の声を設定して、音声を生成できるように改良した。結果、数秒間の「あー」の録音音声のみから、声質を再現する母音を生成可能であることを示した。子音を含む音声の明瞭度等に関しては引き続き検討が必要である。今後、アプリの改良を進め、一般のユーザにも声質再現機能等が利用可能にしていきたい。
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