本課題では、健常腕と義手の運動を力学的に模擬するリアルタイムモーションシミュレータを用いて、健常腕の姿勢に合わせた義手の両腕協調動作生成のオン・オフを切り替える機能を構築することに取り組んだ。被験者の肩部の筋電信号を用いて両腕協調動作生成のオン・オフを行う。筋電信号計測システムとして、無線方式の装着型筋電信号計測装置を導入した。本機能の実装方式として、筋電信号の振幅が一定のしきい値を越えた時点で両腕協調動作生成をオンにする方式(a)について考察した。(a)の方式は簡単であるが、義手の運動を突然止めたり、動かしたりすることになり、安全対策を十分考慮する必要がある。安全対策の一つとして、健常腕が運動しているときは筋電信号がしきい値を越えても両腕協調動作生成をオンにせず、健常腕が静止しているときのみ両腕協調動作生成をオンにする方法を考案した。つまり、安全のために両腕協調動作は常に静止した状態から始めるという制約を付ける。これにより、健常腕を動かしているときに、不意に両腕協調動作生成がオンになり、義手が勝手に動き出すという状況を防ぐことが可能となる。 被験者の肩部の筋電信号を計測することが両腕協調動作生成のオン・オフを切り替える機能の基礎となる。そこで、3名の大学院生を被験者として、被験者の肩部の筋電信号を計測し、オン・オフのための入力信号として利用可能であることを確認した。プログラムの開発遅延のため研究計画で挙げた点をすべて検証できなかったが、被験者の肩部の筋電信号を用いた本機能が実現可能であることを示した。本機能より、健常腕による単腕動作と両腕協調動作生成をスムーズに切り替えることが可能となり、使用者が食器を載せたトレーや布団を健常腕と義手の両手で持ち運んだり、健常腕のみでコップを持ったりといった日常生活動作を円滑に行えるようになることが期待できる。
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