研究課題/領域番号 |
26750245
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
吉江 路子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 自動車ヒューマンファクター研究センター, 研究員 (00722175)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感情 / 運動 |
研究実績の概要 |
他者から評価される社会的場面において緊張・あがりが喚起されると,繊細な運動制御機能が損なわれ,練習の成果を十分に発揮できなくなることがあり,多くのスポーツ選手や音楽演奏家を悩ませている。本研究では,他者の感情的反応が運動に及ぼす影響の背後にあるメカニズムを解明し,緊張・あがりによる運動パフォーマンス低下を予防するための対処法を提案することを目指している。本年度は,緊張・あがりによる運動スキルの変容及びその背後にある脳内メカニズムの検討を行った。実験参加者に,他者から評価されている状況下で持続的な握力調整課題を行ってもらったところ,発揮された握力が増加するという解析結果を得た。さらに,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によってその際の脳活動を調べたところ,緊張によって握力発揮が増加する際には,両側の下頭頂皮質が局所的な活動低下を示すことが分かった。特に,左側下頭頂皮質の活動低下の度合いによって,緊張・あがりによる握力変化の個人間及び個人内の違いを予測することができた。また,緊張・あがりによって,他者の行為に関する視覚的情報を下頭頂皮質に伝える後部上側頭溝の活動が高まるとともに,これら2領域間の機能的結合が弱まった。後部上側頭溝及び下頭頂皮質は,観察された行為の遂行を助ける「行為観察ネットワーク」を構成している。本研究結果から,行為観察ネットワークの活動パタンの変容が,緊張・あがりによる力発揮を媒介していることが明らかになった。本成果は,Scientific Reports誌に原著論文として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,緊張・あがりによって握力が増大するという解析結果を得た。また,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって,こうした行動的変化の背後には,脳内の感覚運動変換領域の活動パタンの変化があることを明らかにし,これらの実験結果を原著論文として発表した。以上のように,おおむね予定通りの成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに,緊張・あがりが持続的力発揮という運動スキルの一側面に与える影響を明らかにした。今後は,さまざまな運動スキル要素を含む複合的な運動課題を開発し,緊張・あがりが運動スキルの別の側面に及ぼす影響も検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
以前に確立した実験セットアップを工夫して再利用することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな実験系を開発するための備品・消耗品費や実験参加者への謝金に使用する予定である。
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