ゲームの流れやチームのリズムは,様々な集団スポーツにおいて勝負の鍵となる重要な事象であることが知られているが,その実体は定かではない.本研究の目的は,多人数間のコミュニケーションによって成り立つ集団的挙動のダイナミクスを,集団スポーツを通じて理解することである.ゲームとチームというスケールの異なる集団のダイナミクス(動的変化の規則性)を明らかにするために,サッカーゲーム映像の解析手法を検討し,ゲームイベントおよびプレイヤーの位置情報の取得を検討した.また同時に,ゲームやチームの集団的挙動を評価できる集合変数を検討した.最終年度では,得られたゲームデータの集合変数をリターンマップ分析に当てはめた結果,ゲームのリズム(攻守の切り替わりタイミングの時間間隔)とチームのリズム(プレイヤー間のパスのタイミングの時間間隔)の両方に関して,短い周期と長い周期を繰り返すパターンと次第に短くなるパターンの二種類の方法で,一定の周期に近づく傾向が確かめられた.また同時に,チームのリズムを生成するチーム内の協調行動を実現するための個の動きの仕組みを明らかにするために,三者間の協調行動をモデル化し,実験データと比較した結果,敵や仲間,空間という3つの事象からの見えない力によって個人のプレイヤーの動きが駆動されている可能性が示唆された.また,仲間の動きを察知するための練習道具の開発を行った.サッカーゲームとは,競合や協調という二種類の社会的な相互作用が多階層に渡って混在する複雑な集団現象のひとつであるが,本研究では,リターンマップ分析を通じて集団スケールを越えたリズム生成の共通性と,それを支える個の動きの仕組みに迫ることができたと考えられる.
|