本研究では、学校体育やスポーツ活動の指導現場で見受けられる、「50%」、「7割」や「全力より少し弱く」といった、相対的あるいは抽象的な種々の表現方法での運動強度呈示下における、運動実施者の主観と客観の差異を明らかにするとともに、その際の運動制御機構を解明することを目的とした。 運動強度の呈示は、相対的な呈示として、最大努力(max)の10%から90%までの10%刻みで9段階(数値使用条件)、抽象的な呈示として、「全力より少し弱く」「半分より強く」「半分より少し強く」「半分より弱く」「弱く」等の11段階(数値不使用条件)、合計20段階とした。力覚測定として、対象者が発揮した力を測定し、呈示された運動強度下で行った力発揮が実際はどの程度の強度であったかを定量化した。その結果、数値使用条件では、20%maxから60%maxの間で隣り合う運動強度との間に有意差が認められなかった(p>0.05)。数値不使用条件では、「半分より少し弱く」と「半分より弱く」との間に有意差が認められなかった。それら以外に関しては、すべて有意差を認めた。なお、「半分より少し強く」と指定した場合には、約60%maxの運動強度を実現していることが示された。筋電図測定を実施した結果、同程度の正確性であった異なる条件間で、主働/拮抗の関係にある筋の同時収縮値が異なることが明らかとなった。また、同程度の正確性となる数種類の運動強度呈示下における運動誘発電位を測定した結果、数値不使用条件下では皮質内抑制効果が増大している傾向が観察された。これらのことから、運動強度のグレーディングにおいて、強度の感覚が大きい場合には数値使用、より詳細な場合には数値不使用による運動強度呈示を行うことが有効であることが示唆された。
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