本研究では,さまざまな条件下でのゴルファーの心理的距離を推定するために,異なる技能レベルの参加者を対象とし,参加者の距離知覚とパフォーマンスを測定,それらの関係を明らかにすることを目的として取り組んでいる。ゴルフパッティング課題では,環境のわずかな違い(距離や傾斜)を知覚し,それに応じて運動を調節しなければならない。しかしながら,このような運動課題の距離知覚と運動調整がどのようにして達成されているかは科学的に不明である。 本研究のこれまでの取り組みから,プロゴルファーとハイレベルアマチュア選手の運動の違いは,細かな距離の違いを打ち分ける能力にあることがわかり,プロゴルファーの運動の解像度がハイレベルアマチュア選手に比べて高いことが明らかとなっているが,ハイレベルアマチュア選手の解像度がプロに比べて悪い原因が,わずかな距離の違いが認識できていないのか,あるいは認識できてはいるものの,それを運動に上手く反映できていないのかが不明である。さらに,これまでの取り組みのなかで,Visual Analog Scale (VAS)を用いて測定できるような顕在的距離知覚に両者に違いはみとめられなかった。当初計画においては,VAS を用いて心理的プレッシャー下の距離知覚を測定する予定であったが,VAS による測定では参加者の距離知覚を測定し,参加者の心理的距離を推定することは困難であることがわかった。そこで当初計画を変更することとし,潜在的な距離知覚を測定するための試みとして,素振りに着目して新たな実験を行うこととした。 平成29年度は27年度に実施した実験を発展させ,素振りの役割をさらに明らかにするための実験を実施した。この実験結果については現在,解析中である。これらの取り組みから,知覚から運動が発揮されるまでの過程を明らかにすることができると考えられる。
|