研究課題/領域番号 |
26750266
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
黒田 賢治 広島大学, 総合科学研究科, 研究員 (00725161)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イスラーム / イラン / 空手 |
研究実績の概要 |
本年度においては、イランの空手道の史的展開を明らかにすることを目的に、文献調査及びイラン空手関係のウェブサイトの調査に加え、イランにおけるフィールド調査を実施するとともにペルシャ語の文献資料収集に当たった。 文献調査に関しては、スポーツ人類学の議論の整理を行うとともに、イランにおけるスポーツ文化に関する英語文献の調査を進めた。その結果、イランにおける「外来」スポーツに関しては、同国において国民的スポーツであるサッカーを含め、1979年のイラン革命とそれに続くイラン・イラク戦争の期間において停滞期にあったものの、空手およびテコンドーに関してはその例外として発展してきたことが明らかとなった。 イランにおけるフィールド調査として、イラン・イスラーム共和国テヘラン市においてイラン空手連盟(Federasiyun-e Karate Iran)本部事務所および同連盟テヘラン州管轄事務所、および連盟付属の空手施設や町の道場においてインタビュー調査を実施した。その結果、いわゆる伝統派空手とフルコンタクト空手など競技上のルールが異なる空手の流派が、連盟にそれぞれの部門ごとに組織されるとともに、連盟が段位の管理を行っており、イラン独自の体系化が行われていることが明らかとなった。だが同時に、各国の流派の本部との繋がりも有しており、昇段等に関する結びつきも維持されているという、空手道場の対立のない二重の帰属が可能となっていることも明らかとなった。 さらにフィールドにおけるペルシャ語の文献収集においては、伝統派、フルコンタクトを問わずペルシア語で出版されている各流派の教本を中心に収集した。出版大国イランにあって、空手関係の書籍については、出版タイトルそのものが少なく、扱っている書店は少数であった。今後、収集した資料の読解を進めることで、イランにおける空手道の史的展開について整地していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年における研究活動の実施は、フィールド調査と文献調査が計画以上に進展した一方で、研究成果の発信という点では計画よりも下回ったことから、おおむね順調に進展していると自己評価を行った。 すでに研究実績の概要において述べたように、イランでのフィールド調査においては、イランの空手文化の大きな骨組みとなる組織構造について調査を進めることができた。また次世代の選手育成とイスラーム教育を連盟が進めてきたことも明らかになり、本研究の目的である空手文化のイラン的展開、つまりイスラーム的転回について予測以上にデータを収集することができた。また文献調査においては、イランにおけるスポーツ文化およびスポーツ人類学一般の研究に視野を広げながら、先行研究の整理を十分に進めることができた。特にイランにおける比較政治などの論者として知られているシェハービーによるサッカーを始めとしたイランにおけるスポーツ文化に関する研究論文は、本研究計画を実施していくうえで非常に重要な手掛かりとなる研究であった。 一方で研究成果の発信として、本年度においては国際学会においてイスラーム的転回をめぐる概念的な内容の発表に留まっている。そこで今年度の調査成果について、次年度においては研究成果の発信について務める必要がある。以上のような調査面での計画以上の成果と成果発信面での不足という理由から、自己点検評価としてはおおむね順調に進展している評価するとともに、次年度の課題として成果発信を掲げたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を実施していくうえで、次年度において空手に関して前年度および前々年度の研究成果を統合していく必要があると同時に、本研究においてイランにおける空手の展開との比較軸となるヨーガの実践についても視野に入れた調査を実施していく必要がある。そこで来年度のフィールド調査においては、空手に関する研究成果発信に際するデータ補足のためのフィールド調査を実施するとともに、イランにおけるヨーガに関するフィールド調査を進めていきたい。またイランのヨーガに関しては近年欧米での報道でも、イランにおける争点として知られていることから実践者のプライバシーの保護など個人情報の保護など研究上の倫理を意識した調査を実施していく必要があることに留意したい。 また次年度においては、異文化の事物をめぐる現代イランにおける受容プロセスの全体像を明らかにしていくうえで必要な、理論的な比較の視座としてイスラーム境界領域にあるマイノリティ・ムスリムに関する研究を参照しつつ、イスラームと異なる文化的背景をもつ事物との関係について研究の深化を図りたい。 また自己点検評価にも記したように、来年度においては、本研究において得られたフィールド調査等のデータを基にした研究成果の発信に努めていく必要がある。そこで次年度においては、これまでの成果をイランにおける空手文化の展開をめぐる論考としてまとめるとともに、国内学会・研究集会での発表を行い、積極的に研究成果公開に着手していく。
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備考 |
なし
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