研究課題/領域番号 |
26750266
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
黒田 賢治 国立民族学博物館, 現代中東地域研究国立民族学博物館拠点, 拠点研究員 (00725161)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空手 / イラン / イスラーム / 身体技法 |
研究実績の概要 |
本年度においては、フィールド調査として、空手連盟本部や連盟が管理する道場に加え、連盟の文化部部長を務める人物が代表をつとめる空手団体に着目し、参与観察を実施した。同団体の本部及び支部は、いずれもテヘラン市内のモスクの敷地内に道場を構えており、稽古の始まりや終わりには祈願(ドアー)やクルアーンの朗誦が行われていた。また成人男子の稽古の開始前あるいは終了後が、日没の礼拝時間と重なりを持つことから、敷地内のモスクで集団礼拝を行っているなど、空手の稽古とイスラーム実践が重なりを持っていた。さらに一般的な空手道場においては、稽古の掛け声として日本語に順ずる言葉が用いられるものの、同団体においてはそうした言葉はまったく使われず、代わりに平易な宗教的語彙が用いられていた。 こうした空手団体は、先行研究で指摘されてきたように80年代に戦時下に置かれた国家がスポーツ活動の支援を中止した際に例外として支援された、体制のイスラーム・イデオロギーを強化させるモスクを中心とした格闘技スポーツの活動を引き継ぐものであると評価できることが調査から明らかとなった。しかしながら、こうした活動は、団体代表が和道流空手道の故鈴木辰夫氏の指導を受けたことがあることや和道流の競技会に練習生が参加してきたことから、ガラパゴス化によるものではなく、近代スポーツの枠組みにありながら、異文化を自文化へと翻訳する現代イラン的展開の特徴として解釈可能であることが理解できた。 調査結果の一部については、本年度における国際ワークショップでの報告に加え、次年度において、現代における共同性のあり方として国際学会においてパネルを組織するとともに報告を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年における研究活動の実施は、フィールド調査が計画以上に進展するとともに、昨年度に課題としてあげた本研究において得られたフィールド調査等のデータを基にした研究成果の発信に努めていくための道筋をたて、研究成果の発信に向けた準備を着実に行うことができた。また当初の計画にはなかったものの、空手道という近代日本において育まれた武道に着目することで、近代日本とイラン両国の文化的関係について明らかにする問題意識が芽生え、同問題に関する研究成果の発信を行うことも出来た。 昨年度に収集したイランで出版されてきた各流派の教本などのペルシア語文献資料をもとにイランにおける空手道の史的展開について整理を行った。その結果、空手の文化的背景として古代インドの武術に始まり、少林寺拳法と禅の関係など非イスラーム的実践が歴史的にあったという認識が一般的であり、またある種の「東洋的趣味」をもって理解されてきたことが明らかとなった。他方、フィールド調査の過程で、日本の空手家による直接の指導や内弟子として日本への空手留学も行われてきたことも明らかとなった。さらには本年度のフィールド調査で参加した空手団体のように、空手をイスラーム的身体技法として受容する集団についても明らかになった。そして、さまざまな集団が前年度までに行ってきたようにイラン空手連盟のなかで空手として統合されてきたことが明らかになった。このように着実に研究を進めていること、また今後の研究成果発信の準備を整えていることから、概ね順調に進展していると自己判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、空手道とヨーガの実践を比較することで、現代イランにおけるイスラームを媒介とした異文化の事物の受容のプロセスについて明らかにする予定であったが、本年度にフィールド調査を実施した団体のように空手道だけをとっても十分に研究目的は達成することが予想される。そこで最終年度にあたる次年度においてはヨーガの実践について研究を深めていくよりは、現在までの空手道の研究を深化させ、より精緻化した議論を行う方が合理的判断であるように思われる。次年度においては、これまでのフィールド調査と文献調査によって得られた成果を統合し、イスラームを媒介とした空手道の受容のプロセスを明らかにしたい。 また研究成果については、国際研究集会での発表や英語による論文執筆に加え、空手が2020年の東京五輪の追加種目として採用されたことで、一般的にも空手に対する関心が高まっていることから、本研究の研究成果を広く一般の読者に向けて発信できるような媒体での成果公開を目指したい。
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