本年度においては、これまでの研究成果の統合と同時に、積極的な研究成果発信を第一とした研究計画を実施した。 昨年度の計画変更のように、空手に限定しながら、イスラームを媒介とした異文化の事物の受容のプロセスについて研究成果の統合を行った。イラン革命後、新たなイスラーム国家の理念を共有する団体によって、空手道を新国家が推奨する理念と結びつけてきたことがこれまでの調査過程で明らかになった。このような試みは、近代から太平洋戦争中にかけた日本における武道の発明とイデオロギー化とパラレルな現象として相対化することが可能であることを指摘した。端的に言えば、イランにおける空手の「道」化が、革命後のイランで一部の団体においては展開してきたということである。大多数のイランの空手団体においては、このような「道」化が進んできたわけではなかったものの、「道」化した空手が存在することによって、空手の存在がイスラーム的であるとしてイスラーム国家にとっても受容されることになった。その結果、イラン革命後に例外的に国家によって推奨された近代スポーツとして、80年代半ばには国際大会への復帰が可能となり、イランの空手文化の発達が起こってきた。 このような部分的なイスラームとの繋がりが、全体としての事物の受容とさらなる文化的発展を生み出してきたことを最終年度の研究成果としてとりまとめるとともに、昨年度までの研究成果の発信並びに、本年度に得られた研究成果の発信を行った。国際学会でのパネル組織や論文等による成果公開という研究者に向けた発信に加え、昨年度に課題としてあげた一般の読者に向けて発信できるように一般書における発信の準備を整えた。
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