最終年度では、これまでの縦断的測定の結果をまとめて科学的知見と実践的知見の融合・循環が達成されるためのモデル構築を試みた。本研究で対象とした大学生競技者で重要視されることは、体力レベルの向上とそれに応じた専門的な技術の獲得、および長期的なトレーニング計画によってより高い負荷(量的にも強度的にも)を漸進的に課す中で、専門的な体力・技術を高めていくことにある。本研究では、実践的にトレーニングマネジメントに介入した結果、このレベルの競技者に共通して課題となるものが、トレーニングの「質」であることが浮かび上がってきた。本研究の結果からトレーニング実践の「質」はもとより、競技者およびコーチの思考の「質」がトレーニングの出来栄えを大きく左右することになると考えられた。本研究の事例を検討した結果から、以下の概念に基づくトレーニング・コーチングモデルを提案した。このモデルでは、「質」の向上に基づいたパフォーマンスの向上(動作の変容)ついて共通理解を促しているとともに、その前提条件として必要となる、ある面では科学的エビデンスを下敷きにした目指すべき合理的な動きの共通理解(運動構造の理解)、客観的情報の提供および主観的情報の抽出と共有とを重要視するものである。その上に、競技者は、競技パフォーマンという包括的存在を知的に知ることと同時に実践的に知ること、すなわち、「知行合一」を、コーチは実践と科学の相互補完的関係を考慮した両知の融合と実践知の理論化を意図して、トレーニングとコーチングを循環させていくことによって、トレーニングマネジメントはテーラーメイド化され、思考の質⇔動きの質の関係が導出されていき、パフォーマンスが向上していくことを説明するモデルである。本研究ではさらに、このモデルに基づいてトレーニングを継続し、競技者の発達段階に応じてモデルを改変していくことが重要であることが示唆された。
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