当該年度は、2016年5月にアメリカ合衆国(以下、アメリカ)カリフォルニア州で、2017年3月にメキシコ合衆国(以下、メキシコ)オアハカ州で現地調査を実施した。 アメリカでは、先住民伝統スポーツの1つであるペロタ・ミシュテカが当地のメキシコ系移民社会において、文化資源へと再定義されつつある過程が観察された。毎年、5月に開催されている当該スポーツの国際大会では、前年よりもメキシコ政府領事館の関与が高まっており、単なるスポーツではなく文化としての価値をこのスポーツに見出している様子が確認された。一方で、アメリカのメキシコ系移民の間では、ペロタ・ミシュテカを通じて、オアハカ文化の独自性を改めて発見する者もいるなど、メキシコ先住民伝統スポーツがアメリカ社会に生きるメキシコ系移民の文化的アイデンティティーの形成に作用している様子も明らかになった。 メキシコの現地調査では主に先住民伝統スポーツの中でもウラマと呼ばれる球技と上述のペロタ・ミシュテカに関する1次文献、2次文献を収集することができた。これらの文献によって、これまで20世紀半ば以降の先住民伝統スポーツの空白となっていた歴史の再構成が部分的に可能となった。また、2次文献の性格から、先住民伝統スポーツの文化資源的意義をメキシコ社会が見出す契機が、これまでにも多くあったことが判明した。 今後は、こうしたメキシコ先住民伝統スポーツの文化資源化の過程について、メキシコという国とその文化が歴史的に生成してくる文脈の上において分析する必要がある。そのことを通じて、メキシコ文化とは何かがスポーツという側面から批判的に考察されるとともに、一方でメキシコ文化からスポーツ概念の批判的検討がなされることになる。
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