本研究の目的は,呼吸様式の違いが泳者のストリームライン姿勢における水中牽引時抵抗に及ぼす影響について検証することであった. 研究代表者は,これまでの研究で残肺気量の変化に伴う浮力の増減の影響によって泳者の浮心重心間距離が変化することと,その浮心重心間距離と水中牽引時抵抗の関係は2次曲線で表すことができることを報告してきた.また,過去の研究では,腹式呼吸がスタティックな状態でのストリームライン姿勢における浮心重心間距離を短縮させることを報告している.しかしながら,泳者が実際の水中牽引時に腹式呼吸を実行できるのか,それによって能動的に水中牽引時抵抗を軽減することができるのかについては,いまだ不明瞭な点が多く詳細なデータの収集・検証が必要となる.特に,水中牽引によって前方に移動する場合のストリームライン姿勢では,流線型姿勢保持のために胸郭周辺の呼吸筋群が緊張してしまう可能性があり,その結果,腹式呼吸ができないことも予想されることから,呼吸と牽引抵抗の関係を定量的に評価する方法の確立が必要となる. 本研究では,呼吸ピックアップ装置を用いて胸部と腹部の周径囲変化を測定することで,呼吸様式の違いを評価した.胸部・腹部の周径囲変化と水中牽引時抵抗を同時計測した結果,水中牽引状態においても,泳者が胸式・腹式のそれぞれの呼吸様式を意識することで,胸部・腹部の周径囲変化が起こることが観察された.水中牽引時の換気量は,腹式呼吸時が胸式呼吸時と比べて大きくなった.水中牽引時の抵抗は,腹式呼吸時が胸式呼吸時と比べて小さくなった. 大学生競泳選手を対象とした本研究では,腹式呼吸は換気量を増加させ,水中牽引抵抗軽減に寄与する可能性が示唆された.
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