脂質メディエーターの一種であるリゾリン脂質は細胞増殖やミトコンドリアダイナミクスの制御など様々な生理活性を有する分子である。脂質メディエーターは運動による骨格筋の適応現象を制御する可能性が考えられるが、これらの脂質分子が急性運動あるいはトレーニングにより変動するか否かは未だ不明瞭である。昨年度までに、急性の持久的運動によりマウスの骨格筋中および血液中で変動するリゾリン脂質分子種の同定を試みた結果、いくつかの特定の脂質分子が持久的運動後に骨格筋で変動することを見出した。平成28年度は持久的運動トレーニングにより変動する脂質分子の探索を行った。具体的には、トレッドミル装置を用いた持久的走行運動トレーニングを負荷した後に、骨格筋組織を採取した。骨格筋組織から脂質成分を抽出した後に、高速液体クロマトグラフ質量分析計を用いて、各種のリゾリン脂質の分子種の骨格筋濃度を測定した。その結果、持久的運動トレーニングを負荷した後に、リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルエタノールアミンおよびリゾホスファチジルエタノールコリンは、特定の細胞酸を含有する分子種が骨格筋で増加することが示された。以上の結果から、持久的運動トレーニングは骨格筋中の特定のリゾリン脂質分子種の濃度を変化させることを見出した。今後は、急性持久的運動および持久的運動トレーニングで変動したリゾリン脂質の骨格筋への生理作用についての検証が必要である。
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