これまでに、一過性中強度(@乳酸閾値)運動が記憶の固定化を高め、長期記憶を促進することが報告されているが、その調節機構は明らかではない。記憶の固定化には、海馬CA1での神経活動依存的な新規タンパク質の合成が不可欠であり、この海馬CA1の神経活動は扁桃体からの入力により高まることが示されている。また、中強度運動による海馬CA1神経活動の亢進も報告されており、これらは、一過性中強度運動で記憶固定化が促進される背景に、海馬CA1での新規タンパク質合成や扁桃体から海馬CA1への入力の亢進が関与している可能性を示す。 そこで本研究では、はじめに、一過性中強度運動で記憶の固定化(長期記憶)が高まるラットモデルを作成し、この運動効果が海馬CA1へのタンパク質合成阻害剤(アニソマイシン、Ani)投与によって抑制されるかの検討を行った。すべての実験には雄性Sprague-Dawleyラットを用い、記憶固定化能力は位置認識試験の学習試行から24時間後に行うテスト試行の成績で評価した。実験の結果、学習施行後の一過性中強度運動(20分、20m/min)がテスト試行の成績を高め、この運動効果が海馬CA1へのAni投与によって抑制されることを明らかにした(国内外学会発表済み、投稿準備中)。この結果は、一過性中強度で高まる記憶の固定化(長期記憶)が海馬CA1での新規タンパク質合成を介すことを示すとともに、今後詳細な分子・神経機構を解明していくための基盤となる。現在は、一過性中強度運動による記憶固定化の促進に、扁桃体から海馬CA1への入力が関与しているかについて、他の領域からの入力も並行して検討するために、逆行性トレーサーを用いた解析を実施している。
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