研究課題/領域番号 |
26750308
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
東原 綾子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員 (90724237)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皮質脊髄路興奮性 / 伸張性収縮 / 運動制御 |
研究実績の概要 |
ヒトの身体運動は,筋張力を発揮しながらも外力によって筋が伸張される伸張性収縮,筋が短縮しながら張力を発揮する短縮性収縮,緊張の変化を伴わない等張性収縮によって遂行されている.そして,収縮中の筋における皮質脊髄路興奮性は筋の収縮様式に依存して変化することが先行研究によって明らかになっている.しかし,これまでは筋収縮様式それぞれの局面での検討はなされているが,関節運動に伴う皮質脊髄路興奮性変化については検討されていない.本研究では,関節運動時の筋収縮様式の変化に伴う皮質脊髄路興奮性の変調を分析することで,運動遂行時の筋収縮制御機構を明らかにすることを目的とした. 健常成人8名を対象に実験を行い,座位にて右手部を実験装置に固定し,右手関節掌屈方向に対し抵抗が生じるように滑車を介して重り(最大手関節屈曲筋力の20%)を設定した.対象者は60°の動作範囲において素早い手関節掌‐背屈動作を行なった.高速の背屈運動(伸張性収縮期)から掌屈運動(短縮性収縮期)への転換前後において経頭蓋磁気刺激(活動時運動閾値の130%強度)を左大脳皮質一次運動野に与え,右橈側手根屈筋に生じる運動誘発電位(MEP)から皮質脊髄路興奮性を検討した.その結果,橈骨手根屈筋の背景筋電活動に関して,動作方向の切り替え直前の値が,切り替え直後と比較して有意に高値を示したが,このときのMEPに有意な変化は認められなかった.動作方向の切り替え前後において,右手部掌側に生じるトルクおよび動作速度は同等であった.本研究の運動課題では,高速の手関節運動に伴い橈骨手根屈筋は伸張性収縮から短縮性収縮に転じていると考えられるが,本結果から,伸張性収縮期において皮質脊髄路興奮性に抑制の修飾がかかっている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,手関節掌―背屈運動における筋収縮様式切り替え時の皮質脊髄路興奮性の評価を行い,筋収縮様式変換時の運動制御機構の解明に向け,順調に研究を進めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,筋収縮様式(伸張性収縮/短縮性収縮)切り替え時の皮質脊髄路興奮性変化に関して,橈側手根屈筋に随意運動由来の筋疲労を生じさせる前後の皮質脊髄路の興奮性変化を評価・比較することにより,筋収縮制御時の皮質脊髄路興奮性に筋疲労が及ぼす影響を明らかにする.それと並行して,平成28年度の研究成果を原著論文として国際誌に掲載することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究機関の異動に伴い実験実施環境を再構築する必要があった.したがって,実験実施のための物品購入による支出が主となり,研究成果公表のための旅費や論文執筆の費用の支出がなかったため,次年度使用額として繰り越しを申請した.研究進捗としては順調に進んでおり,平成29年度では継続して実験を行うとともに,成果発表を積極的に行う予定である.
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に引き続き,橈側手根屈筋に随意運動由来の筋疲労を生じさせる前後の皮質脊髄路の興奮性変化を評価・比較することにより,筋収縮制御時の皮質脊髄路興奮性に筋疲労が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした実験を行うため,実験消耗品の購入および実験被験者への謝礼として支出予定である.また,日本体力医学会において実験結果を発表する予定であり,国内旅費として使用予定である.
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