本研究では、認知症予防効果に対する理解と、地域環境要因が、高齢者の認知症予防行動の実践(認知機能検査の受診、身体活動の実施)に及ぼす影響を検証することを目的としている。本研究の結果から、認知症予防に関するエビデンスに基づく情報を発信し人々の気づき・理解を促すことと、地域環境の整備を進めていくことが、認知症予防を普及促進していく上で重要な役割を果たすかどうかを提案できる。 平成27年度、認知機能検査の受診については、検査の受診を促す介入手法の開発に関する研究を行った。具体的には、前年度の縦断的な分析成果から、検査のメリットを強調する介入の方が、認知症への不安・心配を喚起する介入よりも効果的であることが示唆された。そこで本年度は、対象地域居住の60歳以上に、メリットの強調を意図したチラシ、不安・心配の喚起を意図したチラシ、および従来型チラシのいずれかを無作為配布し受診率を比較した。しかし、受診率に有意差は認められなかった。Webモニターを対象に追加検証も行った結果、本研究で開発したチラシでは、メリットが十分に強調できていなかったため、望ましい効果が得られなかったことが示唆された。 平成27年度、身体活動の実施については、予防効果を認知している者の方が、身体活動を実施している傾向にあるかどうかを検証した。しかし、両者の有意な関連性は認められず、予防効果への気づき・理解を促すだけでは、身体活動は促進されない可能性が示された。また、客観的に測定された地域環境要因と身体活動実施との関連性を検証した結果、自動車・バイクの運転者においては、最寄バス停・駅までのアクセスが良い方が身体活動を行っていることや、転倒恐怖感が高い者においては、近隣の歩道が整備されている方が身体活動を行っていることが明らかとなった。
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