研究課題
老化は万人に生じる事象であり、妨げることができない。特に、老化によるミトコンドリアの機能的・形態的障害(ミトコンドリア不全)はあらゆる臓器において、代謝疾患を惹起する。脳由来神経栄養因子(BDNF)はTrkB受容体を介して、ミトコンドリア機能・量を調節し、細胞におけるエネルギー代謝において極めて重要な役割を担っている。本研究の目的は、BDNF-TrkBの活性化が、老化に伴うミトコンドリア不全によるエネルギー代謝異常による疾患の発症・進展を抑制するという仮説を検証するとともに、BDNF-TrkBシグナル制御によるミトコンドリアの機能的・形態的適正化という独自の概念に基づく新たな老化、疾患予防・治療を目指すものである。BDNFはTrkB受容体を介して、神経の成長・分化、シナプスの可塑性に関与することが知られている。我々はヒトにおける血中BDNFレベルが老化に伴い低下することを明らかにした。近年、BDNFは脳ミトコンドリア機能の増加、また、PGC-1αを介してニューロン樹状突起棘のミトコンドリア生合成を増加することが報告された。さらに、骨格筋培養細胞において、BDNFはAMPKのリン酸化を介して脂肪酸酸化を亢進することが報告されている。我々も、BDNF-TrkBシグナルの活性化がAMPK-Sirt1-PGC-1α経路の活性化を介して、骨格筋ミトコンドリア機能および量を制御することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究目的である1)骨格筋ミトコンドリア機能およびBDNF-TrkBシグナルが老化によって低下することを明らかにした。2)BDNFノックアウトマウスが骨格筋ミトコンドリア機能不全を呈することを明らかにした。
老化マウスのミトコンドリア処理機構制御におけるBDNFシグナルの役割の解析を行う。老化マウス(正常およびBDNF KO)の骨格筋もしくはBDNFノックアウトマウスおよび骨格筋BDNFもしくはTrkBノックダウン細胞より得られたミトコンドリアを用いて、平成26年度計画で行う上記①‐⑦を評価する。また、老化におけるミトコンドリア処理機構におけるBDNF-TrkB活性化の効果の検討として、老化マウスにおけるリコンビナントヒトBDNF投与の効果の検討、老化マウスにおけるTrkB受容体作動薬(7,8-DHF)投与の効果の検討、BDNFノックアウトマウスにおけるミトコンドリア処理機構の検討を行う。最終年度は論文の作成、学会発表を行い、北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学のホームページやニュースレターなどを通じて、研究成果を社会へ発信する。
旅費の支出が見積もりより少なく、残金が生じた。
消耗品の購入に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件)
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