研究課題/領域番号 |
26750336
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
金子 雪子 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (00381038)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 膵β細胞 / ジアシルグリセロール / ジアシルグリセロールキナーゼ / 脂質シグナリング / インスリン分泌 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
本研究では、膵β細胞核に存在するジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)δを介したβ細胞機能制御系の存在を裏付けるべく、DGKの機能低下がβ細胞機能に及ぼす影響について検討を進めた。昨年度までに膵β細胞特異的DGKδ欠損マウス(βDGKδKO)を作製し検討を進めた結果、DGKδ欠損マウスの随時血糖値が低めに推移する、経口糖負荷試験による糖負荷後の血糖値が低値を示す、血中インスリン濃度が増大する等の表現型が認められ、欠損マウスの耐糖能が亢進することが明らかとなった。一方で、βDGKδKOより単離した膵島におけるグルコース誘発インスリン分泌反応は変化しなかったことから、βDGKδKOにおける耐糖能の亢進は、β細胞量の変化によるものではないかと考え、2015年度はβDGKδKOの膵β細胞量の解析を行った。βDGKδ KOの膵薄切切片を用いた免疫組織化学的解析により、β細胞における増殖マーカーの発現増大や膵島数の増加が認められた。これらの膵島について、膵島のサイズ毎に解析を行った結果、サイズの小さい膵島のみが著しく増加していることが示された。さらに細胞周期促進因子の発現が有意に増大していることが明らかとなった。以上の結果より、β細胞核におけるDGKδの欠損により、新たな膵島の新生が促されていることが示唆された。今後、膵島新生メカニズムや糖尿病に対するDGKδ欠損の影響について解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度までにβ細胞特異的DGKδ欠損マウスの耐糖能が亢進することが明らかとなったため、2015年度は耐糖能が亢進する理由として、β細胞増殖に着目し解析を行った。方法として、マウス膵を200μm毎に薄切し、インスリン、核、Ki67増殖マーカーを3重染色し、染色切片をThermo社Array Scanを用いて、インスリン陽性細胞面積、インスリン陽性細胞数、インスリン陽性Ki67マーカー陽性細胞等の解析を行った。その結果、直径60μm以下、β細胞数20個未満の小型の膵島の数がDGKδ欠損により著しく増加すること、Ki67陽性β細胞の割合も有意に増加することが明らかとなった。そこで、β細胞増殖メカニズムを解析するため、膵島を単離し、細胞周期関連遺伝子や、代償性過形成に関連する遺伝子等の発現の解析を行った。その結果、細胞周期促進因子の発現が増大する一方で、代償性過形成に関連する遺伝子の発現には影響がないことが明らかとなった。このように、実験はおおむね順調に進行したが、DGKδ欠損マウスの出産数が少なく、予定していた免疫染色法による細胞周期促進因子の局在についての解析を終わらせるまでには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
DGKδの機能欠損により膵島新生が促進される可能性が示されたものの、そのメカニズムの解明には現段階では至っていない。そこで、DGKδ欠損により核内でどのような種類の脂肪鎖を有するジアシルグリセロールが増加しているのかを確かめるため、DGKδをノックダウンしたMIN6細胞を用いて、核分画を抽出し、LC/MSによりDAGの量および分子種について共同研究者との協力により解析を進める予定である。また、本年度進める予定であった細胞周期促進因子の局在についても解析を進め、膵島新生メカニズムについても明らかにしていく予定である。また、DGKδ機能欠損による膵島新生が糖尿病治療へ及ぼす効果についても検討を行う。現在、糖尿病病態モデルマウスの作製に取り組んでおり、DGKδ欠損による膵島新生促進作用により、糖尿病病態時において血糖改善効果を示すのかについて解析を進める準備を行っている。ただし、現在、βDGKδKOの出産数が食殺、育児放棄などにより、十分ではない。そこで、環境エンリッチメント材等を導入することにより、繁殖効率の改善を目指す予定である。
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