右後肢には坐骨神経切除手術を、左後肢にはその偽手術を施したラットを用いて、手術後1日~14日の間に2日に1回の頻度で温熱刺激(42 ℃の温浴、30分間)を施し、ヒラメ筋の形態および細胞内シグナル伝達機構にもたらされる変化を追究した。温熱刺激群へは、イソフルランの吸入麻酔下で上記の温熱刺激を行い、刺激中はラットの身体が湯と直接接触しないようにビニール袋を穿かせた状態で後肢を湯に浸けた。また、麻酔の影響も考慮し、30分間のイソフルランの吸入麻酔のみを施したコントロール群も用意し、両群を比較することにより温熱刺激の効果を観察した。 結果、間欠的に温熱刺激を行うことにより、神経支配が正常なヒラメ筋の肥大は促進され、神経支配が断たれたヒラメ筋の萎縮は軽減されることを確認した。しかし、これらの効果は同一の分子メカニズムを介してもたらされたのではなく、神経支配が正常なヒラメ筋では温熱刺激の最中または直後からAkt-mTORカスケードが活性化され、タンパク質の合成が亢進されることにより筋肥大が促された可能性が高い。一方、神経支配が断たれたヒラメ筋では、温熱刺激により細胞の保護機能を有するタンパク質が減少するのが抑えられるとともに、タンパク質分解機構の活性化が軽減されることにより筋萎縮が軽減されたと考えられる。 坐骨神経切除脚のヒラメ筋では、温熱刺激によるAkt-mTORカスケードの活性化が顕著に抑制されたことから、温熱刺激は神経系を介して骨格筋のAkt-mTORカスケードを活性化し、タンパク質合成を亢進させることが明らかとなった。したがって、神経支配が正常(または軽微に傷害された程度)である骨格筋の萎縮モデルを用いた実験ではより大きな筋萎縮抑制効果が確認できる可能性が高いと考える。
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