研究課題/領域番号 |
26750355
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研究機関 | 千葉経済大学短期大学部 |
研究代表者 |
柏木 恭典 千葉経済大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (80461771)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 赤ちゃんポスト / 匿名出産 / 内密出産 / 緊急下の女性 / 子育て支援 / 社会的養護 / 教育学 |
研究実績の概要 |
2014年度の研究実績は、二つの論文と連載原稿(月一回発行、計12回)、そして学会発表というかたちで示されている。 論文としては、日本保育学会『保育学研究』(第52巻3号)において、本研究に関する論文が掲載された。タイトルは「シュテルニパルクの子育て支援と赤ちゃんポスト」である。赤ちゃんポストを創設した民間教育団体シュテルニパルクのこれまでの取り組みを総括し、その教育学的背景と赤ちゃんポストに向かった主な動因について明らかにした。また千葉経済大学短期大学部研究紀要第11号において、本研究の研究成果として、論文を公表した。タイトルは「シスター・モニカと緊急下の母子への匿名支援」である。後者の論文では、これまで調査の対象としてきた人物の個々の立場や考え方の違いについて、図式化し、個々の支援者の理論的背景の総合的な分析を行った。 連載原稿は、NPO法人「生命尊重センター」が発行している「生命尊重ニュース」に毎月掲載されているものである。2014年4月から、2015年3月まで継続して連載されてきている(現在も進行形である)。このニュースは、母子の支援に学術的・実践的に関与しているエキスパートや市民に向けたもので、一定の社会的影響をもっている。理論的な分析のみならず、実践的な課題についての具体的な提案等を行っている。 本研究に関する学会発表としては、2014年11月に行われた日本理論心理学会での学会発表がある。タイトルは、「匿名支援の方法としての同伴」である。ドイツの匿名支援において重要な概念である「同伴(Begleitung)」という概念についての論究を行った。この発表に基づいて、現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ドイツで議論されている匿名出産及び内密出産と赤ちゃんポストの内実を明らかにするとともに、母子の福祉・保健にかかわる新たな支援の可能性を探ることにある。 2014年度はその基礎を築くことができた。赤ちゃんポストを設置したユルゲン・モイズィッヒ氏への直接インタビューも試みることができた。同時に、彼に関する文献や資料についてもある程度収集することができた。また、匿名支援のパイオニアであるシスター・モニカ氏とのコンタクトも取ることができ、それを論文にまとめることができた。研究実施計画でも、「支援団体への調査・インタビュー」の必要性を述べたが、それを実施することができたことは、これからの長い研究におけるよい出発点となった。 ただ、匿名出産・赤ちゃんポストに対して批判的な立場をとる論者への聞き取りという点では、まだ十分とはいえない。とりわけ赤ちゃんポストについてはまだ議論の渦中にある。その批判の根拠や理論的問題点については、今後きちんと整理していきたい。 日本の「こうのとりのゆりかご」についての発言もある程度行うことができた。「こうのとりのゆりかご検証会議」においても、本研究を経て明らかになった知見を発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、主に赤ちゃんポストの是非を問うその論拠となる部分に光をあてて、論理的な観点からの研究を進めていきたい。 研究実施計画においても、「母子の関係性を排した個々の実存の支援」と「母子の関係性を踏まえた関係性の持続の支援」という二つのフレームを示しているが、まさにその「間」で生じる矛盾やコンフリクトの解明を試みていきたいと考えている。 その際、日本文化とドイツ文化の違いも考慮されねばならないように思われる。日本では、「制度に基づく支援」が積極的に行われるのに対し、ドイツでは、「制度では不可能な支援を実践領域において遂行し、その結果として制度を修正していく」という立場を重視している。この点においても、更なる研究が必要であろう。 具体的な研究の方策としては、これまでに収集した文献の分析、学術的な観点からの図式化、そして、本研究における理論的背景の解明を進めていきたいと考えている。これまでの調査やインタビューで明らかになったことを、学説の中に位置づけ、その学説全体の中で、個別のケースについて考えていく。
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