本研究は、発達初期における選好の形成要因を科学的に明らかにすることを目的とした。静的な現在時点の選好ではなく、その選好がどのように形成され、また変化するかを明らかにするには、実際の多数の乳幼児に対し、多数回に及ぶ試行を経験してもらう必要があるため、従来行われている「実験室に親子を招いて実験する」方法では、参加を募ることが事実上難しい。本研究は、現在広く普及してきたタブレット型PCに実験刺激の提示と制御を司る「実験アプリ」を作成・インストールして、家庭に貸与し、自宅において実験に参加していただくことで、この問題を解決しようとするものである。この「ホームラボ」手法の具体的設計・運用方法を確立することも、本研究の大きな目的である。 Andoroid OSの開発環境が変化していく中、昨年度はファイルアクセスの安定化とタイマーイベントの正確性向上のため開発を行った。今年度は、その改善されたアプリによってデータを取得してきた。毎日数回提示される刺激、毎日1回のみ提示される刺激、全期間を通じて1回しか提示されない刺激、の3種類で比較した場合、1歳児の一般的傾向として、従来知られているように、見たことがない新奇な刺激を最も選好する傾向が見られた。また、実験期間の最初のうちは「毎日数回提示される刺激」と「毎日1回のみ提示される刺激」の間の差はほとんどなかったのに対し、期間の終わりごろには「毎日1回のみ提示される刺激」がより選ばれる傾向がみられた。ただし、このような選好の変化は個人差が大きく、統計的に十分なデータが未だ集まっていないため、今後のさらなる研究が必要である。
|