平成28年度は、習熟度の異なる幼児の跳び箱運動・開脚跳びの動作様式の特徴及び成否に関与する技術要因を検証した。被験者は、幼児体育の専門指導員による運動遊びの実践を保育に組み入れている幼稚園2ヶ所に在籍する幼児92名(男児36名・女児56名)であった。なお、分析、検証に使用したデータは平成27(2016)年度に収集したものである。観察評価及び二次元動作分析の結果、幼児期における開脚跳びの成否に影響を及ぼす技術要因として、踏切から跳び箱への着手に至るまでの局面において2項目、着手後の腕支持期間において身体が最大高に達するまでの局面において5項目を確認できた。すなわち、幼児期における開脚跳びでは、身体の前方回転が得られるように踏切と着手を同時期に実施した後、支持腕の角度を拡大させながら腰を挙上し、同時期に下肢を前方に振り出すことにより前方へ体重移動していた。しかしながら、小学校以降の熟練者にみられるような「身体の前方への投げ出し(第一空中局面に相当)」と「跳び箱離手時の意識的な押し出し」の出現事例はわずかであった。 平成27年度までの研究により、開脚跳びとその技術構造の系統性に着目した5つの運動技能(「よじ登り」「跳び降り」「踏み跳び」「支持跳び乗り」「手足跳び移動」)の習得過程に一定の方向性があることが確認されている。開脚跳びの成就度と各運動技能の成就度及び運動能力(MKS運動能力検査に準拠)の評定値の関連性の検証により跳び箱遊びの技能構造を明らかにした。 以上より、幼児期において動作の多様化と洗練化を図る総合的・長期的な運動遊びプログラムに関しては、技能習得過程の方向性を「開始時期の順次性」、技能難易度を「環境・種類の多様性」、目的動作(開脚跳び)への影響度を「取組期間の長短」の指標とし、目的動作(開脚跳び)の技術要因を反映させた遊び群を配列することが必要だと考えられた。
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