アクチンは細胞骨格の一種であり,様々な外的な刺激や発生のコンテクストに応答して,ネットワークが速やかに再編成され,これにより細胞極性形成や神経突起の伸長,細胞運動などの細胞のダイナミクスが支えられている.本研究課題では,運動や細胞内物質輸送等のさまざまな現象で多種多様な機能を果たすアクチンの動的挙動を可視化可能な合成小分子の蛍光プローブを開発することを目的に,独自の発見に基づきプローブの開発を行っている. 申請者は,本研究課題とは別の目的の蛍光プローブの開発を行う過程で得られた蛍光色素がアクチン繊維を染めることを偶発的に発見しており,これが本研究課題の端緒となった.従来,アクチン繊維に高い親和性を有する化合物は,複雑な構造を有する非天然環状ペプチドや大員環ラクトンが報告されるのみであったが,申請者らの発見した分子はロドール類に属する非常に単純な蛍光分子でありながら,アクチンへの高い結合性を呈していた.本研究課題1年目においては,偶発的に発見されたアクチン結合性の蛍光色素の構造類縁体の設計・合成を行い,構造と結合性における相関の検討を行った.これにより,現在得られている蛍光色素は,ロドールを母核とする分子全体がアクチン繊維に認識されているのではなく,特定の部分構造を有していれば分子量300程度の比較的小さな化合物もアクチン繊維への親和性を呈することが明かとなった.このような小分子はこれまでに例がなく,非常に興味深い発見である.3年目においては類縁体の系統的な合成をさらにすすめることで構造活性相関の知見深め,in vitro系のみならず,in cellulo 系においても,アクチン繊維の伸展速度や結合様式に関する精査を行い,生細胞イメージング系の応用を進めていった.
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