研究課題/領域番号 |
26750371
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
蓑島 維文 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (20600844)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒストン脱アセチル化酵素 / 蛍光プローブ / DNA / エピゲノム創薬 |
研究実績の概要 |
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)はヒストン等のタンパク質中のアセチルリジンをリジンへと変換する酵素であり、エピジェネティックな遺伝子発現の制御に関わっている。HDACはがんや神経変性疾患などの病態で見られる異常な遺伝子の機能発現と関連していることが指摘されており、創薬の標的として近年大いに注目されている。従ってHDACの活性検出は生物学だけでなく創薬開発の観点からも重要であると考えられる。しかしながら、既存の方法では検出までに煩雑な手順を要するという問題があった。そこで本研究ではHDAC活性を簡便な操作で検出できる蛍光プローブの開発に取り組んだ。ヒストンの脱アセチル化によるリジン残基の電荷状態と、それに伴うDNA結合能の変化に着目し、新たな蛍光プローブを設計した。この蛍光プローブはDNAに結合することで蛍光が上昇する核染色色素とアセチルリジンを含む基質からなっている。基質の脱アセチル化によってDNA結合能が上昇し、蛍光が増大することを期待した。蛍光プローブの設計において、核染色色素、基質であるペプチド、ならびに間のリンカーの構造を検討した。その結果、脱アセチル化によって蛍光が大きく増大する蛍光プローブを見出した。この蛍光プローブを用い、DNA存在下、蛍光プローブとHDACを混合して酵素反応を行うことで、一段階の操作という簡便な手順で活性検出に成功した。本検出システムは蛍光プローブが脱アセチル化後、速やかにDNAに結合することが分かったため、酵素反応速度を直接追跡できることが可能であり、速度定数の解析が可能であることを示した。HDAC阻害剤を用いたアッセイに本系を適用することで、簡便迅速に阻害剤の活性評価ができることが示され、将来的な薬剤スクリーニングの系へと応用できる基盤技術を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いる蛍光プローブの合成手法として、既報に基づいて合成した核染色色素を、固相上で連結したペプチド基質のN末端に色素を導入する方法を確立した。この方法で目的の蛍光プローブを純度良く得ることができた。また、本合成手法は基質に脱アセチル化後の生成物であるリジンを有する蛍光プローブの合成にも適用可能であった。 合成したアセチルリジン、リジンを基質に含む蛍光プローブにおけるDNA存在下の光学特性を比較した。核染色色素として、マイナーグルーヴバインダーであるBOXTOを選択したところ、脱アセチル化に伴い、10倍程度の蛍光強度の上昇が見られた。さらに基質、リンカー部分を検討した結果、DNAへの結合能が向上し、蛍光強度が大きく上昇するプローブ、BOXTO-GK(Ac)Gを見出した。 このプローブを用い、酵素反応を試みた。クラスIIIに属するHDAC、SIRT1を選択し、DNA存在下、BOXTO-GK(Ac)Gと混合したところ、経時的な蛍光の上昇が観察された。酵素反応をHPLCによって分析したところ、蛍光強度の上昇と共に生成物であるリジン体を確認することができた。これらの結果より、当初の目標であった酵素と混合するだけという一段階操作でのHDAC活性検出に成功した。加えて、HPLCによる生成物の収率と蛍光強度の上昇が一致していることが分かり、蛍光強度変化を経時追跡することで酵素反応の進行を定量的に評価できることが明らかとなった。従って、基質の濃度を変えて測定することで酵素反応速度定数を算出することが可能となった。 本検出法はクラスIIIだけでなく別のクラスIのHDACも検出が可能であることが分かったため、それぞれ異なる阻害剤を使ってアッセイを行った。結果として、それぞれの阻害能に対応したHDAC活性の阻害が見られ、50%阻害濃度を用いて阻害能の評価ができることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究で得られた知見を基に、細胞内HDAC活性の検出を目指す。これまでに低分子蛍光プローブを用いてHDAC活性を検出した例はなく、実現できれば細胞レベルでのスクリーニング系の構築が可能となり創薬開発に貢献が期待できる。また、細胞内でのHDAC活性がどのように制御されているのかは不明な点も多く、生物学研究用ツールとしても有用であると期待される。本検出系は、他の操作を必要とすることなく、酵素と反応した蛍光プローブが、速やかにDNAに結合し蛍光追跡が可能であるという利点を有している。また、HDACはDNAの豊富な核に主に存在している。そのため蛍光プローブを細胞に添加するだけでHDAC活性に応じた核からの蛍光強度の上昇が観察されるものと考える。 しかしながら、現状、本研究で報告したBOXTO-GK(Ac)Gは検出可能なHDACの種類に制限があることが課題として挙げられる。実際、BOXTO-GK(Ac)Gは一部の種類のHDAC、また細胞核からの抽出液に対してはほとんど反応が進行しなかった。そのため、現状のプローブでは細胞内のHDAC活性の検出は困難であることが想定される。そこで、プローブの基質部分を再検討することを今後の研究計画として進める。具体的にはHDAC阻害剤の構造を参考にした基質を有するプローブを設計、合成する。核抽出液と反応させて検出が可能なプローブ構造を選択し、細胞への評価に用いる。実際に細胞内のHDAC活性を検出するためにはプローブの細胞膜透過性、核移行が問題となることが想定されるが、プローブの導入条件、細胞膜透過性、核移行能を上げるためのプローブ構造の改良を行うことによって、解決できるものと考える。最終的に細胞内HDAC活性の蛍光イメージング、定量評価に使用できるプローブを開発していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究改革としてはおおむね予定通り遂行したため、その成果を次年度開催される学会で発表するための出張旅費、参加費に充てる予定である。また、新たな基質構造を有する蛍光プローブを27年度末に合成したものの、その評価が年度内に十分に実施できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度開催される国際学会で本研究成果を発表するための出張旅費、参加費として使用する予定である。また、新たな基質構造を有する蛍光プローブのin vitroにおけるDNA結合能、蛍光特性の評価のための消耗品、酵素の購入にあてる予定である。
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