研究課題/領域番号 |
26750375
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
臼井 健二 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 講師 (70543792)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロアレイ / バイオ関連機器 / タンパク質・ペプチド / アミロイド / 細胞アレイ / 光切断リンカー |
研究実績の概要 |
高齢化社会に突入した我が国において、アミロイド病の原因物質といわれるアミロイドペプチド・タンパク質(アミロイド)に関する研究は、治療や診断といった分野はもちろん、ナノスケールの繊維や凝集体を形成することに着目したナノ材料分野など、各方面で重要になってくる。しかし、現在においてもアミロイド研究は遅々として進展しておらず、その最大の理由として、凝集体の形成条件が各研究で異なることが挙げられる。そこで本研究では、従来の手法では難しかったこれらアミロイドの凝集プロトコルを規格化することで、いつでも誰でも同条件で、物理化学的アッセイや細胞アッセイなどが行えるシステムの構築を目指す。今年度は、ペプチド合成樹脂を担体として用いた本系の構築を試みることにした。ペプチド合成樹脂を用いることにより、樹脂に直接ペプチド合成を高純度に行うことにより、固定化作業を経ずに樹脂にモノマーのまま、アミロイドを固定化することが可能となる。こうすることで、比較的難しい精製ステップを省けるほか、固定化時の凝集の懸念もなくなる。本系がうまくいくかどうか検討するために、比較的扱いやすい、アミロイドβペプチドの部分配列をモデルとして用いた。また樹脂からの切断が可能となる光切断リンカーをペプチドと樹脂間リンカーとして用い、固相合成によるペプチドの固定化とモノマー化、そして、光照射によるペプチド遊離による凝集開始が可能であるか各種実験を行った。ペプチド合成の最適化を行い、ある程度高純度にペプチドを樹脂上に配置することに成功した。次に、最適な光照射条件の検討を行った。その後、既存のモノマー化法(DMSO法)との比較を行った。その結果、既存のモノマー化法に比べて、簡便にかつ、確実にモノマー化が行えていることが判明し、さらに、モノマー化剤などが測定系に混入することなく、凝集反応が行えることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定とは異なりガラス基板ではなく、より簡便に操作もしやすい固相合成用樹脂を担体に使用するなどの予定の変更があったものの、それでも1年間で本コンセプトの有用性が証明された。既存の方法よりも確実、簡便にモノマー化できることが判明したほか、光照射によるペプチドの線維化開始も比較的短時間で行うことができ、凝集時間を実験ごとに揃えることも可能であることが示唆できた。また、線維化実験も既存の方法よりも簡便に確実に再現性良く行えることもわかった。以上の成果は、複数の学会で発表を行えたほか、本研究に関連する総説も執筆し現在発行中、また関連研究の原著論文も投稿中であり、当初予想していたものよりも多くの成果が得られた。ただ2年目へ向け本法の問題点なども分かり始めてきたので、それらを解決すべく本システムの改良を行う必要がある。以上より、当初予定していた研究内容から多少の変更はあったものの、成果は確実に得られており、1年目は、2年目もほぼ当初の計画通り進められる程度の進展具合であることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3つを2年目に行う予定である。 1.構築できたシステムの更なる改良 1年目は光照射による遊離法を用いたが更なる効率化、簡便化などを目指し、別法を用いることを模索する。また、樹脂の導入率を下げることによる、合成時の純度向上と、ペプチド遊離時の効率化も模索する。 2.本システムを用いた細胞培養と細胞毒性評価 細胞毒性を有するペプチドを固定化したプレートでの培養は通常培養と同じように細胞が生育することがこれまでの我々の知見で明らかになっているが、アミロイドペプチドを固定化したプレートでも通常培養と同様の培養が可能であるか、固定化ペプチドの毒性評価測定をを行う。以上が問題なく行えれば、そこでペプチドを遊離させ、オリゴマー化・線維化を誘起して、細胞への影響を調べる。ペプチド遊離前後の生細胞数を調べることにより細胞毒性評価を行う。 3.本装置を用いたアミロイドβペプチドの細胞近傍挙動解析 本システムが有効であるかを示すために、代表的なアミロイドペプチドであるアルツハイマー病の原因物質と言われているアミロイドβペプチドを題材に、実際に固定化、細胞培養、凝集を行い、細胞への影響を調べていく。まず、比較的測定しやすい、細胞毒性実験を行う。これまでに最適化された固定化法、細胞培養法、光照射法を採用し、遊離後の細胞生存率を求め毒性を評価する。次に、細胞近傍での挙動解析を試みる。まず観察が可能となるよう、ペプチドに蛍光色素を導入したペプチドを合成し、これを固定化する。細胞培養などで毒性がないことを確認後、光照射し、共焦点顕微鏡を用いることで、これらペプチドの細胞導入具合や細胞膜吸着具合などをリアルタイムで観察する。また、遊離ペプチド濃度を確認することで、細胞導入・吸着量を見積もる。以上を試みることで、実際に本装置によって簡便に一連の細胞アッセイが可能であるかを評価し、本課題をまとめていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究とは別の課題において民間助成金が採択され、消耗品においては共通試薬・器具などの購入をそちらで賄えたほか、旅費においても複数課題の発表を伴う学会発表参加が多かったため、単年度使いきりであったその助成金使用を優先した結果、主に物品費、旅費において当初見込み額よりも経費が小さくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、進捗状況も概ね順調であることから、新しい機器の購入により当初2年間の予定通り物品費を使用したい。また、成果発表も積極的に行うために、旅費を当初2年間の予定額通り使用したい。
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