酸化ストレスは加齢、糖尿病、がん、動脈硬化などといった数多くの疾患メカニズムと関連していることが知られている。ROS(Reactive Oxygen Species)と総称される酸化ストレスに対して、タンパク質アミノ酸残基の中でも、システイン残基のチオール基の反応性が高いことが知られている。このため、酸化ストレスの惹起時に、チオール基に可逆的・不可逆的翻訳後修飾が生じることが多い。 本研究では、このようなシステイン残基の酸化状態というプロファイル情報を基軸に、細胞内の恒常性状態を評価する系の構築を試みた。プロテオミクス技術を主軸に、複数のシステイン残基の同時定量が可能なisobaric labeling法を採用し、システイン残基の酸化状態の網羅的定量化を試みた。系の構築と一連の最適化を行った後、培養細胞を用いた検証実験を行った。 培養細胞由来タンパク質からシステイン含有ペプチドを抽出し、再現性良く定量化に利用できたペプチドをまとめ、システイン残基の酸化状態を検証した。その結果、未処理細胞においては平均24.4%(中央値23.1%)が酸化状態にあり、1 mM DTT添加5分後では平均20.4%(中央値19.6%)、50 uM H2O2添加5分後では平均22.9%(中央値21.8%)の酸化状態であった。この結果からも観察されている通り、DTT処理によってシステイン残基の多くはより還元的な状態に移行していた。一方、比較的低濃度のH2O2処理においては、有意差を伴って酸化状態に移行したペプチドが極めて少なく、H2O2特異的ともいえるレドックス反応性の高いタンパク質群が酸化状態に移行していた。
|