本研究ではカテゴリという精緻化された知識を必要とするトップダウン的な行動制御と、そのような制御を必要としないボトムアップ的な行動制御が脳のどこにおいて実現されているかを調べるために、前頭連合野および線条体から神経細胞活動を記録することを目指すものであった。 サルに視覚刺激と結果(報酬または嫌悪刺激)を連合される記憶課題を行わせた。課題では、見た目が異なる視覚刺激4枚を1グループとして、2つのグループ(計8枚の視覚刺激)からなる刺激セットを作り、そのなかからランダムに選んだ1つの刺激をサルに提示した。各刺激グループは特定の結果を予告しており、サルは提示された視覚刺激から報酬がもらえるか、嫌悪刺激がくるかを予測する。学習訓練が進むにつれ、サルはジュースを予告する視覚刺激に対してはジュースが出る前からジュースが出てくる飲み口をなめるようになったのに対し、食塩水を予告する視覚刺激に対してはそのような行動を抑制するようになった。その後、それまでジュース(食塩水)を予告していた刺激グループが食塩水(ジュース)を予告するように、刺激と結果の関係を入れ替える逆転学習を導入した。サルは刺激と結果の関係が入れ替わったことを1つの視覚刺激で経験すると、同じグループに属する他の刺激に対しては結果との関係が変わったことを経験する前から、行動を変えることが分かった。 サルがこの課題を行っているあいだに、前頭連合野および線条体から神経細胞活動の記録を行った。前頭連合野において視覚刺激が提示されたとき、予測される結果や現在のルール(どちらの刺激グループがどの結果と結びついているか)をコードしている神経細胞があることは我々の先行研究で明らかになっていたが、線条体においても同様の活動が見つかった。今後はデータの数を増やし、前頭連合野と線条体でどのような違いが見られるかを比較する予定である。
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