昨年度に引き続き、他者認知の神経回路を明らかにするために、ヒトと同じ霊長類であるマーモセットを用いて、他者認知に重要な脳領域として知られている上側頭溝周囲のFST野に順行性のウイルストレーサーを注入して、その神経投射を調べた。上側頭溝周囲からは、前頭前野(10野、46野、8野)、運動前野(6野)、前頭眼窩野(12野)、側頭葉(TE野、TPO野、MT野)、頭頂葉(PF野、PFG野)、島皮質に投射があった。先行研究では、運動前野と頭頂葉にミラーニューロンが存在し、また、島皮質は他者への同情に重要な脳領域であることが報告されている。本研究により、それらの脳領域に、上側頭溝周囲(FST野)から直接の投射が存在することがわかったこれらの脳領野が神経回路を作り、他者の情報を処理していると考えられる。現在は、複数個体のデータの詳細をまとめており、他者認知の神経回路の論文として、投稿準備中である。
また、他者選好を調べるための行動データの取得をするため、マウスの社会性の実験で用いられる3チャンバーを模した行動実験アリーナを作製した。アリーナは、3つの部屋からなり、中央の部屋から左右の部屋に移動できる。左右の部屋の先には透明な窓があり、窓の外側に視覚刺激として、他個体を配置したり、コンピュータモニターを配置して画像を提示できる。左右の部屋で異なる刺激を提示して、アリーナ上部からビデオカメラで計測した画像から、テスト動物の各部屋の滞在時間を計算し、異なる刺激間の相対的な選好を調べる。現在は、アリーナに実際に動物を入れてテスト中である。アリーナは装置としては概ね問題ないが、行動データにばらつきが多いため、行動データが安定するように、ハンドリングや刺激提示の方法などの種々の実験条件を検討している。テストが完了次第、複数個体で計測して結果をまとめ、他者選好の行動データの論文として投稿する。
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