研究課題/領域番号 |
26750382
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
笠井 昌俊 生理学研究所, 発達生理学研究系, 特別協力研究員 (70625269)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 上丘 / マウス / 2光子顕微鏡 / カルシウムイメージング / in vivo |
研究実績の概要 |
本研究は,上丘の重要な生理機能である,視覚ー運動変換の機構を明らかにすることである.本研究の特徴は2光子顕微鏡をもちいて,多数の細胞集団の活動を記録することで,個々の細胞の応答だけでなく実際の脳内における空間的な活動パタンを解析することである.これにより感覚情報がどのように処理され,さらにそれが,運動情報出力としてどのように変換されるかを明らかにできると考えられる. H26 年度は,上丘における視覚情報処理について重点をおいて記録をおこなった.麻酔科マウスの片側の上丘を外科的処置を施し,上丘浅層表面を露出させ,カルシウムイメージングの為に,カルシウム蛍光指示薬である,Oregon Green BAPTA1-AM (OGB1) を負荷した状態で,反対側の目に,空間的にはなれた2点の刺激を提示した.2点の刺激の距離によって上丘の視覚応答がどのように変化するかを詳細に解析したところ,2点の刺激が近い場合視覚応答が増大する傾向にあったが,2点の刺激が遠い場合は,視覚応答の減弱を認めた,中心興奮周辺抑制の応答パタンが,実際に機能していることが明らかになった.現在はさらに視覚刺激のパタンをより複雑なものにして,視覚応答を解析中である.また,カルシム指示薬として,OGB1 よりも応答感度の高い Cal520 や 赤色の蛍光指示薬である CaTM-2 を試したところ,CaTM2 は染色効率や染色範囲が OGB1 にくらべ低かったが, Cal520 は OGB1 と同様の染色効率かつ,応答のダイナミックレンジが広いことから,より多くの情報を抽出できると示唆された.さらに,AAV をもちいて GCaMP を使ったイメージングも開始したところである.2光子イメージング下でターゲットパッチクランプを新たに始め,細胞の形態的特徴から細胞種と応答パタンの解析も開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上丘からの視覚応答に関して安定に記録できる手法・記録システムが構築できた.また,側方抑制を中心とする空間的な細胞集団の応答パタンの解析手法も確立できた.眼球運動の記録としては,所属研究室で過去に開発されたものを仕様予定であったが,2光子顕微鏡および視覚刺激中の眼球運動の測定をする際に困難な点が多数あり,産総研の松本博士の開発した眼球運動測定システムを使用することに変更し,現在調整中である.H27 年度は,眼球運動測定と上丘のイメージングを同時に計測していく予定である.上丘の神経細胞種は主に形態的な特徴で分類され,よいマーカーはあまり見つかっていないため,細胞の形態を明らかにするために,新たに上丘におけるターケットパッチクランプを開始した,まだ成功率は低いが,狙った細胞内に Biocytin を導入をおこない,細胞の形態を観察中である.覚醒下ではまだ安定な記録がおこなえていないため,頭部固定の方式の改善を検討している.
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今後の研究の推進方策 |
計画通り H27 年度は覚醒下動物での記録,および,眼球運動と2光子イメージングによる同時計測を進めていく予定である.上丘深部の活動を記録していくため,急性の場合は,OGB1-AM の代わりに Cal520 を,慢性の場合は,AAV ベクタをによる GCaMP が良さそうである.また,赤色のカルシウム感受性タンパク質である RCaMP の使用も試み,異なる細胞種での2色同時イメージングを検討する.覚醒・慢性時の記録ではより確実に頭部を固定する必要があったが,単に固定具を大きくすると視覚刺激の提示や,眼球運動測定に支障がでるので,なるべく刺激提示側の目とは反対方向の後方からヘッドプレートを挟み込むタイプの固定具に改良する必要がありそうである.さらに眼球運動を測定するカメラと照明用の赤外光はホットミラーで反射させることにより,視覚刺激の提示とかぶらないようなセットアップをおこなう.細胞種の特定にかんしては,最近 Ntsr1-GN209 や Grp-KH268 が 興奮性細胞の細胞種の分類にとして有効な遺伝的マーカーとして報告があり(Gale & Murphy, 2014),これを有効に利用したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
2月末および3月あたまに納入された消耗品2点に関して,部門内での処理は終わっていたが,支払いがH26年度3月末までのおこなわれなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
すでに消耗品として購入済みであり,支払い手続きが終わるのを待っているところである.
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