本研究の目的は、中華人民共和国海南省文昌市の村落に保管されている家系図の情報を利用して当地の人口の変化を復元し、東南アジア諸国に華僑として移住したことの意味を、当地の歴史的なイベント(第二次世界大戦や新中国成立など)との関連を念頭に置きながら、人類生態学・人口学の立場から検討することである。 平成28年度も前年度に引き続き、村落部での調査許可が共同研究機関から下りないという状況が変わらなかった。先方研究機関とは再三にわたり電話やメールで連絡を取り、調査許可に関する打診を行ったが、残念ながら状況は好転しなかった。また、最後まで研究許可取り消しに関する詳細な理由は明らかにされなかった。 そこで本年度は、平成26年度までに収集した家系図情報の中で、追加の現地調査を行わなくてもある程度の人口推移の推測が出来る、一つの氏族(符氏)に焦点を当てて、研究を進めることにした。(符氏に関しては、現地における聞き取り調査によって作成した家系図情報のほか、符氏の一族が作成した家系図が存在する。)家系図の情報によって得られた出生年、死亡年、および婚姻や移動による出稼ぎの年から、1900年以降の人口推移を推計した。なお、家系図において詳細情報が明らかでない場合、兄弟の差異は3歳、親と第一子の差異は25歳、夫婦の差異は2歳(夫が年上とした)と、それぞれ仮定することとした。 人口を復元した結果、1930年代後半から1950年代中盤にかけて、人口は減少傾向にあることが明らかになった。また、1910年ごろから新中国成立までの期間には、多くの人々がタイへ移住していた。上述の期間以外の人口はおおむね上昇傾向にあり、1980年代後半からの一人っ子政策導入による影響は特に見受けられなかった。
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