研究課題/領域番号 |
26760004
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐川 徹 慶應義塾大学, 文学部, 助教 (70613579)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 土地強奪 / エチオピア / 開発プロジェクト / グローバル化 / 牧畜社会 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、今世紀に入ってアフリカ大陸を席巻している大規模な農場開発の現状を把握し、それらの開発事業が地域社会の生業様式や社会関係にもたらす変化を詳細に検討することである。本研究は、この「土地強奪」と呼ばれる動きの中心的な舞台の一つになっているエチオピアの牧畜民地域を対象とする。 本年度は対象地域での農場に関する基本的情報を集めて、正確な情報が明らかになっていない「土地強奪」の実態について解明することを目的とした。文献調査等により明らかになったのは以下の点である。①エチオピアにおける土地強奪は、中央政府や国内資本がその動きの中心的なアクターとなっており、メディア等で頻繁に報道されるような外国資本による「アフリカの再植民地化」の動きとして位置づけるだけでは不十分であること、②対象地域においても、イタリアやインドの企業だけではなく、エチオピア北部出身の投資家らが土地を取得し、農場を建設していること、③エチオピアの他地域からも報告されているように、大規模農場の建設は地域社会と政府、地域社会と事業主、地域社会と農場労働者、地域社会の民族間関係、地域社会の民族内関係に、それぞれ新たな対立関係を生みだしていること、④ただし、土地取引がなされたからといって、必ずしも土地開発が単線的に進むわけではなく、資金不足により撤退する企業や、住民との関係悪化により事業の停滞が余儀なくされている農場があること、などである。 研究の成果の一部は、すでに「国際社会学会世界会議」などの学会の場で発表した。また研究成果の一部は、『アジア・アフリカ地域研究』誌などに論文として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、関連資料の収集とエチオピアでの実地調査の計画を予定していたものの、後者についてはエチオピア渡航の数日前に体調が悪化し急きょ渡航をとりやめたため、実施することができなかった。ただしそのかわりに、国内でアクセス可能な文献を広く入手し熟読すると同時に、昨年度まで収集してきた実地調査でのデータ整理を十分な時間をかけておこなうことができたため、現在の農場と地域社会の関係のあり方を明確にすることができた。具体的には、「研究実績の概要」欄に記した内容にくわえて、地域社会における農場に対する評価が世代やジェンダー、居住地域、教育を受けた年数により大きなちがいがあること、そのため、農場への対応をめぐって地域社会内部に多様な対立軸が生まれ、社会内部の緊張が高まっていること、農場建設により退去させられた人だけでなく、直接的な影響を受けていない人たちの多くも、近年になってトゥルカナ湖の湖岸近くに移住して漁撈活動を営み、新たな現金獲得手段としていること、ただしすでに移住先では土地の稀少化が進んでおり、これ以上の土地強奪が進むと、土地利用をめぐる深刻な対立が生じてくる可能性があることなどが明らかになった。 なお本年度の研究成果の一端は、「研究発表」欄に記載したように、すでに学術雑誌の論文や書籍の1章を構成する論文として公開している。また、国内外の学会や研究会においても積極的に発表をおこなうことで、専門や対象地域を異にする研究者から広く意見を得ている。これらの助言を今後の研究の進展に活かしていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度と同様に国内で資料収集にあたるとともに、エチオピアの首都アジスアベバなどでも関連資料を収集する。また、エチオピアの南部諸民族州サウスオモ県ダサネッチ郡にて実地調査を実施する。今年度は実地調査を実施することができなかったため、次年度は予定していたよりやや長く実地調査をおこない、本研究に関連するデータを重点的に収集する予定である。具体的には、農場開発の対象地域にくらす人びとの従来の土地利用の実態、農場開発にともなう生業様式の変化、さらに農場で雇用されている人へのインタヴュー調査をおこない、農場開発の現状についてのさらなる把握に努める。帰国後は取集してきたデータを整理し、農場と地域住民とのより具体的な関係のあり方を明らかにするとともに、次々年度に向けた課題をまとめる。 また本研究に関連した成果の一部を、学術雑誌における論文や書籍の一部を構成する論文として出版するための執筆を進めるとともに、関連学会や各地の研究会などで口頭発表をおこなって成果公開に努める。発表の場でほかの研究者や実務家から指摘されたポイントを検討することで、次々年度以降の研究内容に反映させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
夏期休業期間中にエチオピアでの実地調査を計画していたものの、出発の数日前に体調に異変が生じたため、大事を取って渡航を取りやめた。そのために予算に余裕が生じた結果、次年度使用額が記載された額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には前年度に断念したエチオピアへの渡航をおこなう。その際、当初の計画よりやや長めの渡航をおこない、また前年度に収集できなかったデータを集中的に得るために、調査助手を雇用しながら調査を進める予定である。
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