研究課題/領域番号 |
26760005
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 遥 京都大学, 総合地域研究ユニット, 助教 (40624234)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 東南アジア / インドネシア / 地域研究 / 自然資源利用 / 熱帯材 |
研究実績の概要 |
本研究は、インドネシア東カリマンタン州沿岸集落において建築木材が世代を超えて使い回される仕組みの実態とその成立要因を、同国リアウ州の状況との比較を踏まえて明らかにすることを目標としている。 2015年度は、インドネシア東カリマンタン州とリアウ州の沿岸に位置する対象集落に各1ヶ月程度滞在し、木造住居に利用される建材の腐朽・劣化状況の測定と、対象世帯の社会経済状況に関する聞き取り調査を実施した。 建材に関する調査では、昨年度の現地調査より、建材の中でも基礎材が長期的に利用されていることがわかっていた。本年度は基礎材を中心に腐朽・劣化状況を測定し、両対象集落間の差異とその要因について検討した。調査の結果、対象とした木造住居では数本の基礎材は強度が低下しているものの、全体としては強度が保たれていることがわかった。波打ち際あるいは水場の下に位置する基礎材が特に腐朽していた。腐朽状況としては、東カリマンタン州ではカキ類の付着により材の細り、リアウ州では材の空洞が確認できたが何によるものかは特定できなかった。また、基礎材の取り付けにおける材の方向が材の腐朽に影響することが示唆された。詳細な分析は来年度に行う予定である。 対象世帯の社会経済状況については、両集落とも人々は漁業を基盤としつつも、兼業漁業として生計を立てている状況が増えつつあった。東カリマンタン州の集落では世帯構成員に市内における公務員やサービス業などの仕事に就く者がいた。リアウ州の集落では公務員や船での物資輸送などの仕事に就く者が多かった。また世帯構成員の出稼ぎなどにより送金なども生計を支えていた。一方で、漁業だけで生計を立てている世帯もみられた。東カリマンタン州では近年ジャワからの新規移住者が増加しており、彼らの多くは漁業の補助作業に就くなど、漁業からの収入が定住の足がかりの一つと示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたとおり、東カリマンタン州とリアウ州の両州において木造住居に用いられる建材の腐朽・劣化に関する測定、そして対象世帯の社会経済状況を明らかにすることができた。基礎材の測定は、潮が引く時間に床下にもぐって行うためかなりの時間と労力がかかると考え、来年度への延長も覚悟していたが、研究協力者や地元の大工などの協力を得ることができ、予定期間内に完了することができた。建材強度の測定はこれまで両集落で行われたことがなく、古い木造住居の保全を検討しはじめている郡政府の関心を引き、新聞の取材を受けるに至った。このような点から、研究そして研究成果の地域社会への還元も順調に進んでいると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度までの研究内容をまとめ、論文を執筆する予定である。基礎材の腐朽・劣化に関しては、引き続き詳細な分析を進める。基礎材以外の建材の測定結果についても分析を進め、住居全体の建材の強度とそれの関連要因を両対象集落の状況を比較しつつ考察する。社会経済状況に関しては、住居の建築および修理や建て替えなどの費用は、本年度明らかにした世帯生計によって支えられていると考えられる。世帯の中には、例えば十数年前の商業伐採からの収入を建築費に充てた世帯も少なからずみられ、数世代を視野に入れて社会経済状況を把握する必要があると考えられた。この点について追加調査を行い、考察を深める。
|
備考 |
東カリマンタン州ボンタン紙の新聞記事に研究成果が掲載された。 Rumah Tahan Ratusan Tahun,‘Gemas’Karena Dianggap Biasa, Kota Bontang, Bontang Post, 27 July, 2015.
|