本研究は、インドネシア東カリマンタン州沿岸集落において建築木材が世代を超えて使いまわされる仕組みの実態とその成立要因を、同国リアウ州の状況との比較を踏まえて明らかにすることを目標としている。 2016年度は、前年度までの現地調査で得られた情報の整理と分析を進めた。また、前年度の調査時にわかった、住居の修理や建て替えに大きく関わる親世代の社会経済状況について、両州に各2週間ほど滞在し、調査した。以上の研究結果は投稿論文としてとりまとめ中である。 東カリマンタン州における建築木材の世代を超えた使い回しの仕組みの実態は、次のように要約できた。人々は住居の建て替えや修理、新築、また相続などの中で、建築木材の約半量を新居や隣人の住居の建材として再利用していた。特に基礎材は、建築時から取り替えられることなく、100年以上世代を超えて利用されている例も存在した。基礎材の使い回しは材料の強度面からも成立していると言えた。劣化状況を測定した結果、材中の含水率が未使用材に比べて高くなっており強度の低下が示唆されるものの、劣化評価の一指標である超音波速度は未使用材と同程度であり、強度はおおむね保たれていることがわかった。 この建築木材の使い回しの成立要因は、次のように考えられた。集落内における親族や隣人との婚姻が多くみられ、集落内で新規世帯が住居を必要する、また世代間で住居の相続が続く状況があると考えられた。経済基盤としては、漁業が新規移住者の足がかりとして機能し、また漁業と他の生業と組み合わせた兼業漁業、また集落外に住む親族からの送金などが多くの人々の経済基盤として比較的安定して存在していると考えられた。現存している住居の中には、1990年代後半から2000年代前半にかけての商業伐採の収入によって建築あるいは修理された住居が少なからず存在し、商業伐採からの経済的インパクトは大きいと示唆された。
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