本研究課題は、東南アジアをイスラーム世界の重要な一部をなす地域として位置づけ、当該地域とイスラーム世界を繋ぐ国際的イスラーム・ネットワークを分析することによって、東南アジアの社会変容を包括的に明らかにすることを大きな目的とする。そのために、本研究課題ではまず、世界最大のムスリム人口を擁する島嶼部のインドネシアを対象として(1)イスラーム世界と国家レベルで構築されているフォーマル・ネットワークと(2)イスラーム社会組織やNGOなど民間レベルで構築されるインフォーマル・ネットワークを解明することで、現代インドネシアにおける国際的イスラーム・ネットワークの全容を解明することを大きな目的とした。 本研究課題の実施を通じて、明らかにできたことは以下の通りである。第一に、東南アジアからイスラーム世界への留学を通じた知的ネットワークについて、留学生同士の直接的な関係性、および留学経験のある人物らとの間接的な関係性の双方が密接に絡み合うことで、留学という知的営為が継承されていることが明らかとなった。第二に、巡礼事業からみるネットワークでは、19世紀後半よりマッカ、マディーナにおいて巡礼ガイド業を営むインドネシア出身者らのコミュニティーの存在と、特にエジプト留学を経験したものらによってインドネシア国内で営まれる巡礼専門の旅行会社らが構築しているネットワークが、現代インドネシア社会の巡礼ブームに乗じてパッケージとして機能していることが明らかになった。
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