地域・集落景観が民族文化を背景とした植物利用の違いに伴う人間生活や住居周辺における植物の植栽配置によって形成されることを民族植物学的フィールド調査等によって実証するため、平成28年度は石垣島および中央ネパール、北タイ地域での現地調査を行った。先島諸島の祭祀植物の一つであるイラクサ(苧麻)は肉体と魂つなぐ紐や八重山上布の材として使われている。その栽培は大規模栽培ではなく民家の庭園で小規模に行われており、28年度は石垣で5か所、西表で1か所の栽培地を発見した。聞き取り調査では苧麻の栽培苗は質の良い系統を代々引き継ぎ、選択栽培されていることが分かり、野生のイラクサとは草丈や葉の柔らかさなど形態が異なることが明らかになった。 ネパールではマリーゴールドの花が祭祀植物として大量に利用されている。それぞれの家庭で小規模に栽培されるほか、首都カトマンズ郊外では大規模栽培されていることが分かった。マリーゴールドの開花は重要な祭であるティハール祭の時期と重なる。各家庭で大量に使われるため、国内生産と併せてインドからの輸入に頼っていた。外来種であるマリーゴールドは庭の持てない都市部のベランダ栽培まで、あらゆる場所で見られた。 タイ北部では、アカ・ラフ族の集落で栽培されるワタの補足調査を行った。今回の調査では、アカ・ラフ族以外のカレン族とモン族のワタの栽培有無を調査した。その結果、カレン族やモン族でも購入した綿の紐を魔除けとして利用する行為は見られたが、ワタの栽培は行われていなかった。このことから、魔除けとして綿の紐が広く利用されているものの、ワタそのものの利用と栽培はアカ・ラフ族固有のものであることが分かった。 これまでに得られた情報から《千金翼方・禁經》与日本奈良市出土二條大路咒符木簡を執筆公表し、『「中尾佐助 照葉樹林文化論」の展開‐多角的視座からの位置づけ』の一部を執筆出版公表した。
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