本研究の目的は、第二次世界大戦終了直後大規模の引揚げを経て中国に残留した朝鮮人が、冷戦下の東アジア国際関係と建国初期の中国国内政治の影響を受けながら、「中国朝鮮族」という新しいエスニック集団として誕生・確立し、存続の危機に立ち向かう政治的プロセスと朝鮮族社会の変容を、中国・韓国・北朝鮮・アメリカ・台湾の一次資料と経験者へのインタビュー調査を通じて実証的に解明することである。 この研究の意義は、①戦後中国在住朝鮮人の歴史を東アジア近現代史のなかに位置づけることを目的の一つとしているが、それは同時に東アジア近現代史の重要な構成部分でもある。②本研究は中国と北朝鮮の国境地域の社会史も含んでおり、今日的な意味がある。③中国の少数民族問題研究の重要なケース・スタディである。本研究は、モンゴル、チベット、ウイグル問題とは異なる、新しく中国に移住してきた異民族に対する包摂と統合の問題である。④コリアン・ディアスポラ研究に貢献するところが大きいだろう。⑤エスニックと国家の関係に関する研究を深化することになる。 今年度に発表した研究成果は下記のとおりである。①学術論文:李海燕「中国黒竜江省M市近郊の朝鮮族へのインタビュー記録(2013年8月・2014年3月)―1940~1970年代を中心に―」(『東京理科大学紀要(教養篇)』第48号、査読あり、2016年3月。②書評:李海燕「朴敬玉著『近代中国東北地域の朝鮮人移民と農業』(御茶の水書房)、2015年2月」(『中国研究月報』第70巻4号、2016年4月)。③口頭発表:李海燕「冷戦期における中国朝鮮族の祖国意識に対する考察」(高麗大学校民族文化研究院・同志社コリア研究センター主催「冷戦研究の最前線 第4回研究会」、京都、2016年3月3日)である。
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