研究課題/領域番号 |
26760015
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
宮本 万里 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 外来研究員 (60570984)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 南アジア地域研究 / 政治人類学 / ブータン宗教社会研究 / ヒマラヤ政治 / 屠畜と放生 / 宗教と肉食 |
研究実績の概要 |
研究プロジェクトの二年目である今年度は、引き続き英国およびブータンでの資料収集とその分析、およびブータンとその周辺社会での現地聞き取り調査を中心に調査を進めた。 昨年度にまとめたブータンの民主化と宗教者の役割に関する研究ノートを大幅に発展させ、この国の新たな政治制度の特徴を公共性およびデモクラシーに関する議論に照らしつつ、隣国ネパールとの比較の視点を加えながら捉えなおした。この論考は英文書籍の1章として出版社に送付済みである。 また、仏教僧院による宗教活動の拡大が、屠畜を抑制し、放生と呼ばれる宗教行為を推進している点に注目し、モンゴルなどでの類似の宗教行為の拡大傾向も視野に入れながら、ブータンでの牛の放生実践の特徴を探った。その成果はドイツのエアフルトで開催された宗教史学会で発表を行ったほか、また経済開発・民主化における宗教の影響について分析した論考をイギリスのバースで開催された開発学会で発表した。 2月に実施した現地調査では、ヤクの放生が行われているブムタン県の村落での聞き取り調査を実施し、放生にかかわる複数のアクターと相互関係、そして放生に至る経緯を明らかにした。また同時に、最近ブータン国内で大きな議論を呼んだ屠畜場の建設とそれに対する反対運動に関連して、ブータン南部国境における精肉市場や家畜移動の動向を市場での聞き取りと統計資料の分析によって調査し、国境を越えた家畜の移動と国内における放生実践や仏教実践とのかかわりについて考察をすすめ、その研究成果をケンブリッジ大学およびロンドン大学UCLおよびSOASでそれぞれ研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現代ブータン政治における仏教界の位置づけの変遷とその社会的影響をとらえるという研究目的に沿い、今年度はブータンの政治制度の変遷とその特徴を、公共性やデモクラシーなど、より広い文脈で捉えなおすことができた。また、仏教僧院による宗教活動が高まる現在のブータン社会を捉える糸口として注目してきた放生実践と精肉市場との関連についしても、新たな調査地と事例を得て研究を大きく発展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、ブータンの民主化政策が宗教世界に及ぼす影響について、人々による公共空間の構築とそこにおける宗教の役割に注目しつつ、より幅広い視野に立って考察を継続していく。宗教空間と政治のかかわりを考察する接点として注目してきた放生実践に関しては、中央僧院よりも民間の団体が主導権を握っている状況が明らかになったため、今後はそれらの団体の活動に一層注目をしていく予定である。また仏教による宗教空間の一元化という現象に関しても、村落社会における信仰実践の変遷を、土着信仰やボン教的な呪術および治癒儀礼とそのための植物利用の変化等を手がかりにしながら多角的に捉えてきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
一つには、物品購入について購入予定品目の一部について入手が困難であり緊急性がなかったため、次年度以降で購入するよう変更したため。二つには、現地研究機関の協力によりブータン現地調査費用および国際会議への参加費用が当初の予定額よりも安価となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定品目の入手および資料購入、国際会議発表のための参加費と渡航費、ブータン現地調査費および英文校閲費としての使用を計画している。
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