研究課題
最終年度となる本年度は、夏季と冬季の二度にわたりブータンおよび北東インドでの調査を実施した。冬季調査を実施した1月には、アッサム州で開催された北東インド地域学会でこれまでの研究に関する報告をまとめ、現地研究者らからフィードバックを得た。また、2018年3月に開催された生態人類学会では家畜の移動と屠畜の関係に関する研究報告を行った。現地フィールド調査では、従来立ち入りが制限されてきたブータン南部での調査を重点的に行った。ヒンドゥー教の寺院や仏教寺院での聞き取り調査のほか、チラン県では現地の農業および食に関する管理規制機関(BAFRA)で屠畜プロセスに関する情報収集を行ったほか、ブータン国内唯一とされる牛の屠畜場での聞き取り調査を実施した。これにより、ブータン国内からインドへの生肉や皮革の流通ルートの一部が明らかになるとともに、生業としての屠畜が主に牛を対象に成立するブータン社会の特徴を確認することができた。また、南部国境のサルパン県では養豚施設とそこでの日常的な屠畜習慣および肉市場に関する情報収集と観察を実施し、養豚業者と家畜との関係性についての理解を得た。インドではブータンと国境を接するアッサム州とナガランド州で調査を行い、宗教と牧畜、そして屠畜の関係について比較分析を行った。特に部族社会を特徴とするナガランド州では、肉畜となる牛が輸入される一方で、半野生のミトゥン牛を介した価値の交換過程が継続していることを確認し、キリスト教を中心とした宗教実践との関連について情報収集を行った。これらの調査結果を元に、仏教団体による大規模な放生実践やヒンドゥー教政権による聖牛保護が、東ヒマラヤ地域とその周辺における牛の移動と牧畜民の生業、および各地の宗教実践をいかに変容させているのか、その影響を考察した。
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The Hiyoshi Review of Social Sciences
巻: 27 ページ: 9-32
http://www.fbc.keio.ac.jp/teacher/staff_list/miyamotomari/index.html