本研究の目的は、移住労働と人身取引の連動性の解明、男女の移住労働に関する社会的要因の比較分析、移住労働者の帰村後の再統合のあり方とネットワークの形成を捉えることにある。より精緻に研究を遂行するため、本年度は事業期間を延長し、海外で実施されている国際学会や、国内内における研究会や学会に参加するなどして比較対象の視座を得つつ、研究を遂行した。研究を深化させるため、更なる移住労働者コミュニティ調査を4月、5月、1月に実施した。その結果、以前の移住労働先の地域は、主に越境を目的とした国境地域に集中していたが、現在は国家や国際援助機関等による政策の影響を受けて作られている経済特別地域への移動や、都市郊外への移住労働パターンなども増加するなどの変化がみえた。現在の移住労働者の背景を捉えると、経済要因による出稼ぎへの誘因という点は共通しているが、窮乏化した貧困者のみの移動に限らず、従来と比較して多彩な背景をもった移住者たちの姿がみえた。越境を目的とした移住労働者たちの動きを捉えると隣接国内にカンボジア人コミュニティを形成し長期にわたり居住する形態が目立ち始め、越境移住労働も長期と短期の双方が存在する。この越境地の滞在の長期化にしたがって、非正規労働者の増加が進行している。従来の移住労働の形態は、帰村を目的としていたものが大半を占めていたが、現在では帰村を選ぶ移住労働者と、帰村自体を選択しない移住労働者がおり、より長期間の出稼ぎへと変遷してきている。従来のように農村への帰還を目的とした社会的包摂のあり方は、現在の移住者らの多彩な生活背景をとらえると、必ずしも相応しい形態とはいえない。今後も引き続き、移住労働のあり方や、男女によって異なる移動の方法、誘引要因などにも引き続き着眼しつつ、移住労働によってもたらされる移住労働者たちの生活状況の変化とその支援を多角的に分析していく必要がある。
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