本研究の第一の目的は、女性の貧困をセクシュアリティに注意しながら把握することである。そのために、貧困者の支援をしているNPO法人自立生活センター・もやいの相談記録の分析を行った。研究の最終年度にあたる今年度は、研究代表者の担当部分であった女性の貧困の特徴を整理するとともに、各分担者と協力して全体の分析を終え、本研究の成果を広く社会に還元すべく、成果を一般書籍の形で出版し、かつその内容を伝えるシンポジウムを実施した。 本研究の第二の目的は、女性を対象とした福祉制度に見られる性規範を把握することである。本年度は、大阪府内にある困窮女性を対象とした多様な福祉制度の課題を把握するための調査設計と議論に加わるとともに、それらの制度下で働くソーシャルワーカーと連携して、その課題の解決の方向を検討し整理した。また事実上、困窮女性の支援を行ってきた売春防止法は、そこに内包される性規範の面でもそれにもとづく困窮女性の支援の面でも課題が多いが、この法に相当する法の改正を行ったフランスと韓国において、新法の内容と改正によってどのように現実が変化したかを調査した。 本研究の第三の目的は、女性の貧困を把握するための理論的研究を進めることである。本年度は、女性の貧困が見えにくい大きな要因となっている、家庭内での不平等な資源配分を明らかにする国内外の先行研究を検討した。特にイギリスに滞在していた今年度は、同分野の研究者と議論しながら、英語圏の研究の到達点を確認するとともに、日本の先行研究との異同を整理した。
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